ミャンマー放浪記4日目~バガンへ(12/31)

タイはアバウトだけどベトナムは割とキッチリしているし、東南アジアだからという理由で信用できないとは一概に言えないのだが、私は3日に及ぶ滞在でミャンマーという国がタイ以上に適当であることを確信していた。

だから、ネットで予約したマンダレーバガンのバス会社のピックアップの車が本当にホテルに私を迎えに来るのか極めて疑わしく、前日にリマインダーのメールまで送ったのだが(返事は直ぐに来た)、当日予定の時間を10分過ぎたところで私はホテルのフロントにバス会社に電話をかけてもらった。
今順繰りにホテルを廻っているから安心しろとのこと。
結局20分遅れで車はやって来たが、それでもバガンに着くまでは油断は禁物である。

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ミャンマーの長距離バスは豪華仕様が多いと聞いていたが、私が乗ったのはマイクロバスを一回り大きくしたようなオンボロバス。
写真だと分かりにくいけど、後ろの窓のガラスはなくビニールが張ってあるのみ。

しかも道中地元民の路線バス代わりに使われキャパ以上にどんどん乗せる。
チケットもなく車掌が現金を回収するのみで、これは運転手と車掌の小遣い稼ぎなのではないかという気がしないでもない。

問題はバガンバスターミナルに着いたときに起こった。覚悟していた甲斐があったと言うべきか。
私はネット予約時に追加料金を払ってバスターミナルからホテルまでの送迎を頼んでおり、プリントアウトしたチケットにもそう書いてある(降りたいホテル名を運転手に知らせて下さい、云々)のだが、車掌はそんなサービスは無いのでタクシーに乗れ、と取り合わない。
おいおいおい、俺は既にカードで料金払ってるんだぜ、チケットにも書いてあるぜ、そんな訳ないだろう!と詰め寄るも「知らない」「そんなサービスは無い」の一点張り。
このバスターミナルは郊外にある上に周りには何も無く、つまりは寄ってくる客引きタクシーに乗る他に選択肢は無いのだ。

複数の運転手と価格交渉するのも煩わしく、手近なオッサンのタクシーに乗る。
ホテル名を告げると知っているという。
値段を聞くと15000チャット、つまりは1100円ぐらい、マンダレーからの長距離バスより高いけどもういいや。
気分は投げ遣り。

そしてホテルに着いたら更にビックリ。
高級ホテル揃いのオールド・バガンの中にあって2つ星の比較的リーズナブルなホテルだから押さえたのだが、そこはなんと川沿いの一大リゾート施設の中の一棟であった。
しかも何も調べずに取った私が悪いのだが、後から知って驚いたことに遺跡保護の観点からオールド・バガンは居住不可地域に指定され住民達はニュー・バガンに強制移動、エリア内には店も何もなく、つまりはホテルで過ごすか観光するしかないのであった。
最近の行き当たりバッタリ旅行スタイルが完全に裏目に出た格好である。
宿泊客は世界各地から訪れた勝ち組セレブ家族ばかりで(多分)、バックパックを背負った薄汚れた一人旅の男は、恐らく私しかいないだろう。
既に気持ちで負けそうだ。

手持ちのチャット残高が不安になってきたのでフロントに両替に行くと、ホテルでは両替出来ないばかりかオールド・バガンに両替所はないと耳を疑う返答。
「どうしても両替が必要なら」と、フロントの上品なお姉さんが2kmちょっと離れたお土産屋が闇両替をやっていると教えてくれた。
選択肢がないならそこに行くしかない。

私は乾いた大地を走る車が巻き上げる砂塵に翻弄されながら闇両替所に向かって歩いた。
そこで気が付いた。
誰も歩いていないことに。
車をチャーターするか、馬車をチャーターするか、自転車を借りるか、電動バイクを借りるかして皆移動しているのである。
私はクラクションを鳴らされながら、時に野良犬に不審げに見つめられながら、猛烈な哀愁を身に纏い黙々と歩いた。

目指す闇両替所はメインストリートから奥まったところにありなかなか見つけられなかった。
店に入っても誰も私に声をかけないし、目も合わせない。
闇両替のみならず、色々とやましい商いをしているのかもしれない。

私は店内の椅子に座って作業をしていた太ったおばさんに、店員ですか?と声をかけた。
「yes」
目も上げず一言。
「ここで両替出来ると聞いてきたのですが」と告げると、不吉な顔を上げ、不吉な目で私を見て、不吉な声で
「ここに座って暫く待ちなさい」と告げたのであった。

おばさんの作業が一段落して、ようやくこっちに向き直る。
すると私の脚を指差し、不吉な笑みを浮かべて現地語で何かを喚いている。
何?何?
不思議そうな私に向かって一言、
「mosquito!」
剥き出しの私の脛に蚊がたかっていた。
他の店員のババアを呼んで一緒に爆笑していやがる。
慌ててペチペチ叩いて追い払うも手遅れ、あちこち刺されていた。
親切な他のおばさんが蚊取り線香を持ってきてくれた。
両替するだけなのに、なんでこんなに苦労しなくてはいけないんだ!?

レートを訊ねると空港のレートより3%ぐらい悪かった。
しかし背に腹は変えられない。私は100ドル両替したが、更に端数は切り捨てられた。
もう文句も言う気もおきない。

更なる哀愁を背負ってとぼとぼホテルへ帰った。

もう腹を括った。
確かに私はしがないバックパッカーだが、その気になればなればセレブの真似事だって出来るのだ。
リゾートホテルが高いって?
そんなの関係ねえ、私の財布にはみずほマイレージクラブのマスターカードと、会社の団体特別加入で作ったUCビザのゴールドカードが入っているのだ、ジャパン・マネーの恐ろしさをとことん教えてやろうじゃないか!

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川沿いのホテルからは夕陽が綺麗に見えて、斜陽気味の私の心とシンクロした。
とりあえずビールを買おうとフロントに売店を訊ねると、敷地内に売店は無く、オールド・バガン全体にも店は無いと衝撃の事実。ビール飲みたきゃレストランへ行けだってさ、ハハハ( ´∀`)。

しかし私もただでは転びませんよ、だって部屋でビール飲みたいんだもん。
そんな訳でレストランで瓶ビールを売ってもらったのであった。

さて、リゾートの掟に従って高いレストランで贅沢三昧しますかね。
しかしこの夜は年越しスペシャルと題し、6時半から各種イベントが行われ、果てはカウントダウン、そして花火大会に至るスペシャルメニュー、レストランはビュッフェスタイルの特別メニューしかないという、とてもじゃないけど関われないようなハルマゲドンの様相を呈していた。
無理。
絶対に無理。

私はフロントに相談、徒歩圏内にレストランはないというので、タクシーをチャーターして隣町のローカルレストランに行くことに。
一体俺は何をやっているんだろう?
家で格闘技とか紅白見ながらマイペースで年越した方が良かったんじゃないか?

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しかしチャーターしたタクシーの運転手が連れていってくれた店は、ミャンマー料理で初めて文句無く旨いと思えるものだった。
嬉しくなってビール2本飲んじゃった。

食事代がビール大瓶2本込みで9000チャット(700円弱)、タクシー代が15000チャット(1100円ぐらい)、何かが間違っている感じは拭えずも、狂乱のビュッフェで見たくもない下らないショウを見ながら悶々と過ごすことに比べたら遥かにマシだ。

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ホテルに戻ると狂乱の宴は依然として続いていた。
私は隣のバーでワインを一杯飲むと(なんとミャンマー産シラーズ、結構旨い、しかし一杯千円近い)、さっさと部屋に引き揚げてベッドに入った。

これが私の2018年最後の日だ。
これで膿を出し尽くして新年は良いことしかないだろう。恐らく。