夏期休暇2018~トビリシからドーハへ(6/30)

目が覚めた瞬間から腹痛を感じていた。

充分に寝て目が覚めたのか、腹痛が私の目を覚めさせたのか、はっきりしなかった。

そんな冴えないトビリシ最後の朝である。

私は朝食を摂りに地下の食堂へと降りた。
残念ながら、空っぽの胃に朝食を落とすと、胃結腸反射で下腹部に更なる痛みを覚えた。
数日前から宿で顔を合わせていた中国人3人組のうち、英語が達者な一人だけが食堂へと入ってきた。

彼等はいつも揃いのポロシャツを来ていたので、私は何らかの競技の中国代表チームが大会に出席する為にここジョージアまでやってきたものだと思っていた。しかし、その英語が達者な一人に訊ねると、彼等は水道ポンプ会社の社員で、得意先のメンテナンスの為にジョージアを訪れた技術者軍団なのだということがわかった。

「明日1日だけフリーなんだ。何処がおすすめかな?」
と、彼は訊いてきた。
勿論、最高なのはカズベギだ。
しかし1日しかないからムツヘタの方がいいかもしれない。

私には分からない。

一応両方を薦めてはみたが、結局のところ彼の最大の関心は、コストパフォーマンスのようだった。

私の体験を誰かと共有することなど不可能なのだ。
旅は金額換算出来ないものだし、旅にかける予算も目的も、国籍以前に人によって異なるものなのだ。

「今から帰国の途につくけど、君の残りの滞在を楽しんで!」

私はそう言って部屋に戻り、荷物を纏めてチェックアウトした。
いや、実はその前に3回ほどトイレにも行った。
昨日からの下痢は、悪化こそすれ良くなる気配は今のところ皆無だった。

トビリシ空港でも3回もトイレに行くこととなった。
旧ソ連の空港のトイレで三度も用を足せる私には、最早怖いものなど何もない。

免税店で樽熟成のジョージアワインを2本を購入、トランジット用のセキュリティバッグに詰めてもらい、お土産の仕上げも完了だ。

残った現地通貨のラリも全て米ドルに両替し、いよいよジョージアともお別れである。

思えばずっと腹具合が悪く、特に最後の2日は劇的に腹を壊し、美味しいジョージア料理を心行くまで堪能できなかったことが最大の心残りで、後ろ髪を引かれる思いである。
しかし引かれて抜けた後ろ髪が、次の旅へのモチベーションにもなるとも言える。

また来よう。
必ずここに帰って来よう。
そんな気になる。

最高の国だった。
人も、食事も、酒も、景色も、この国のなにもかもが私を魅了した。

出発は30分程遅れ、約3時間のフライトで現地時間15時半頃にドーハのハマド空港に到着した。
このままトランスファーで日本に帰りたいところだが私の搭乗予定の羽田行は15時間後の出発、当然ここドーハでトランジット・ステイを余儀なくされるわけであります。

イミグレーション通過後にも何故か荷物検査があり、そこで私の持つワインが引っ掛かった。
いかにセキュリティバッグに入れていようとも、カタールへは酒の持ち込みが出来ないのである。知らなかった。
まるで犯罪者のように別室へとしょっ引かれ、私の大事なワインは税関預りとなる。
帰りのフライトに乗る際、税関まで取りに来いとのことだそうだ。
ジョージアの誇りであるワインが、まるで違法薬物かのように扱われるイスラムの戒律は、個人的にはとても不快であるが、郷に入りては郷に従わざるを得ない。

更に到着ロビーに出ると、予約したホテルの迎えが見当たらないのであった。
インフォメーションに行って訊ねると、係りのおばちゃんがホテルに電話してくれた。
カタール人がカタールのホテルに電話しているのに、何故か英語であった。
そして、おもむろに受話器を私に手渡し、直接話せという。
電話に出たホテルの女性は、申し訳ないが迎えの車は出せないのでタクシーで来てくれ、50リヤル(1500円)で来れる、と言う。
いやいやいや、私は2週間前にメールで空港ピックアップを依頼するメールを送り、お前らは70リヤルにて了承した旨返信したではないか。私の名前を書いたボードを持つスタッフにコンタクトしろと書いていたではないか。
まったく、トランジット向きの4つ星ホテルが聞いて呆れる。

しかしこのまま押し問答していてもホテルには永遠に到着できないので、私は諦めてタクシー乗り場へ。

私がホテル名を告げると、分かった分かったとC調な運転手が言うがどうも信じられない。
試しに携帯でGoogleマップを見せると、案の定私がストラトホテルと告げたにも関わらず、シェラトンを目指している事が判明した。
初めての国なのに逆に道案内するハメに陥る。
どうもこの国とは仲良くなれそうもない。
既にジャカルタ並みに嫌いな都市になっている。

ホテルに着いてチェックインするも、どいつもこいつも揃って無愛想でホスピタリティが低く、ジョージアとの落差が半端ない。
まぁいい、翌日の早朝便に備えたトランジット・ステイなので基本寝るだけ、出歩くのも億劫だしホテルでビール飲んで早々に寝てしまおう。
しかしホテルのレストランにはアルコールはなく、ドーハでアルコールを売っている店は1軒しかない上にホテルから非常に遠いという絶望的な状況が明らかになった。

検索しまくると、このホテルから2.5km離れたベストウエスタンホテルの中にアイリッシュパブがあるのを発見した。
とりあえず歩いてみよう。
なにしろこちらは最低限の両替しかしておらず、心許ないのである。いくらかかるか分からないタクシーは控えたい。

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夕方とは言え猛烈な暑さのドーハ、交通量は多いが歩いている人間なんて殆どいない。
しかもトビリシのカラッとした暑さとは異なり、湿度の高いまとわりつくような不快な暑さだ。
全てにおいて最悪の町である。

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途中人が増えてきたと思ったら、皆さん祈りを捧げる為にモスクに集まってきているのだった。
どうぞ勝手にお祈り下さい。
私は私の神を信じる。

汗だくになってようやく辿り着いたベストウエスタンホテルのアイリッシュパブ
入口でIDチェック、更にカタールで使える携帯電話の番号を教えろと屈強なガードマンに言われる。
自身の携帯番号を英語で、おまけにカタールからのコールで通じるように頭に81を付けて090の最初の0を落として、なんて考えながら喋っているとスラスラ番号が出てこず、どこかぎこちなくなり、
「お前適当な番号言ってるな?これは重要な情報なんだぞ。そんな態度なら入店させない。」
みたいに偉そうなことを言われ、ここまでの一連のカタールに対する怒りが爆発、
「いいか、この番号は間違いなく俺の携帯だ!てめえ、今すぐかけてみろよ、この野郎!」
というニュアンスを携帯を眼前に突きつけて伝えると、わかったわかった的にぞんざいに手を振られて漸く入店許可が。しかしカバンはここに置いていけ、つまりアルコールの持ち出しを禁じる措置なのだろうが、最後まで不愉快なのであった。

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ハイネケンの生ビールは27リヤル。
約810円とお高め。
まったく、たかがビール飲むのに何でこんなに苦労しなくてはならないのだろう?
そう、たかがビール、たかが黄金色に輝く泡立つ炭酸飲料ではないか。
ジョージアでは聖職者だってビールを買いにくるんだぞ。

私はこの旅でジョージアを本当に好きになり、一方でカタールには憎しみを覚えるようになった。
やはりドーハと関わるとろくなことが無いのは日本人の宿命なのかもしれない。
いや、むしろドーハなんかと関わっちゃたから日本代表に悲劇が訪れたのかもしれない。

全く持って、忌々しい。

私はビールをお代わりし、腹具合は相変わらずすぐれなかったので食事はパスしてポップコーンを貰った。

ビール2杯とポップコーンを片付けると、ホテルの前に止まっていた白タクと価格交渉して合意に至り、FXXKな四つ星ホテルへと戻った。