夏期休暇2018~ドーハの悲劇(7/1)

午前6時45分の飛行機に乗る為、4時30分にホテルを出る予定。
この信用ならない国で、こんな早朝に、前夜手配したタクシーが、本当に迎えに来るのか、私は全く信用していなかったのだが、5分前にフロントから運転手の到着を告げる電話が鳴ったのだった。

空港までは僅か15分のドライブ。
ボーディングパスは前日のトビリシ空港で既に受け取っていたので、私は真っ直ぐにイミグレーションへ向かった。
朝の5時前だというのにイミグレは鬼の大混雑、出国手続きを終えるまでに実に30分以上を要した。

二度と来たくない国につき、少額とはいえ余ったリヤルは全て米ドルに両替しようと銀行へ。
しかしシステムがトラブったので暫く待ってくれと、福耳の某リベラル政党代表によく似た銀行職員に待ちぼうけを喰らわされる。
本当にどうしようもない国である。
システムは幸い10分ほどで復旧、19ドルと端数の4リヤルが戻ってくる。
だからリヤルは要らねぇってのに。

さぁ、あとは税関でワインを受け取ったら、こんな国とはオサラバだ。
しかし税関の扉は閉まっており、ドアを叩いても何の反応もない。
もしかしてここじゃないのか?
通りかかった空港職員に聞くと、間違いなくここだという。
「数分で戻るだろう。」と言った職員の言葉は何の根拠もなかったようで、全く税関職員は現れない。
私はインフォーメーション・カウンターに行き、税関職員がいなくて預けた荷物をピックアップ出来ないのでなんとかしてくれ、と頼む。
すると、係員はすぐに戻るからドアの前で待てとの回答、仕方なしにまた重い扉が閉ざされたままの税関オフィスへ。

いつしか預けたアルコールを取りに来た様々な国の人たちによる列が形成された。
10分経過、20分経過、30分経過、
税関職員は一向に現れない。
痺れを切らした何人かが私と同様インフォーメーション・カウンターに窮状を訴えに行くが、その都度力なく戻ってくるのみである。

羽田行き便への搭乗を促すカタール航空の地上職員がやって来たので捕まえて、私のボーディングパスを見せつつ、税関の職員が来なくてワインを受け取れないので助けてくれと頼む。
しかしそいつは「自分には何も出来ない、このトランシーバーは税関には繋がっていない」とにべもない。
インフォメーション・カウンターに行けと言われるが、さっきから自分含めて何人もインフォメーション・カウンターに行っているんだよ!
その度に係員は直ぐに戻ると言われるだけなのだ。

1時間待って遂に羽田行きのファイナルコールが告げられた。
まさかワインを待ってフライトに乗り遅れる訳にはいかない。

私は搭乗口に行き、そこにいた職員に、税関職員が職場放棄していて私が前日預けたワインをピックアップ出来ない。何とか力を貸してくれないかと最後の望みを託すが、「お前が最後の客だ、早く乗れ!」と男性職員に無慈悲に急かされてカッとしてしまい、「お前の国だろう?信じられない!プンプン!」とカウンターを叩いてしまった。
隣にいた女性職員が、どれぐらい待っていたのか?と気の毒そうに聞いてきて、ほぼ1時間だと答えると、同情の眼差しを向けてくれた。
「同情するなら金をくれ!」
と言いたいところだが、勿論悪いのは職場を放棄している税関職員であって、カタール航空には何の落ち度もない。
いや、様々な問題を内包していることを認めるに吝かでない私だが、本件に関しては私にだって何の落ち度も無いはずだ。
ここでは異教徒のアルコールを没収することなど何の罪にもならないということなのだろう。むしろ神の名のもとに推奨される行為と見做されている可能性すらある。
偏狭で独善的で多様性を認めない国、という評価を私はカタールに対して下すことにした。

しかし私はまだ諦める訳にはいかない。
ワインの起源、ジョージアで買い求めた大事なお土産なのである。
機内に乗り込み席に着いた後、日本人CAを捕まえて事情を話す。
直ぐ様チーフパーサーに報告してくれ、そのチーフパーサーが私の席までやって来て、本社に報告してカタール航空としても出来ることをやってみる。羽田に着いたら向こうの地上職員にも経緯を説明しておいて欲しい、と言われる。
やる。なんでもやる。やれるだけはやる。

そしてもし次にカタール航空に乗る機会があっても、私は出来るならドーハにトランジット・ステイするのは止めようと誓った。
ここは留まるべきではなく、通過すべき場所なのだ。



7月1日(日)23時過ぎ。
私は羽田空港に降り立った。

飛行機を出たところにいたカタール航空のバッチを付けた男性職員に直ぐ様事情を話した。
男性職員は「個人的には取り戻すことは難しいと思うが」と前置きした上で出来る限りのことをやってくれると約束してくれた。
私だってほぼ諦めている。しかし出来ることはやっておかないと諦めもつかないのだ。

さて、この記事を書いている時点でカタール航空からワインの行方に関する連絡はまだない。
私の大事なワインは、まだドーハ・ハマド空港の税関で私が取りに来るのを待っているのだろうか。

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