1/2カンボジア放浪記二日目

自然に目が覚めると7時だった。
 
前日12時頃に電池が切れるように眠りにつき、一度も目覚めることなく個人的に最適な睡眠時間である7時間寝ていたことになる。
 
首尾は上々である。
 
顔を洗い、うがいをし、朝食券を持ってレストランへ向かう。
 
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ホテルのバイキング形式の朝食は、何処で何を食べても絶妙な“微妙さ加減”なのだが、この法則はカンボジアでも当てはまるのであった。
まあこの“微妙さ加減”も旅の味である。
そして俺は微妙なホテルのバイキング形式の食事が何故だか大好きなのだ。
 
部屋に戻ってシャワーを浴びる。
 
湯温も水圧も十分なシャワー、イイカンジだ。
 
さて、出掛ける準備は完了した。
しかし、何をするかは何も決めていないのであった。
 
一日ホテルで過ごす訳にもいかない。
 
まずはホテルから歩いてすぐのオールド・マーケットをブラブラ。
 
…。
 
マーケットの熱気は面白いけど、欲しいものは特になく、客引きの勧誘は鬱陶しい。
 
早々に退散してホテルに戻り、綿密に今日の計画を立てることにしよう。
 
まずは翌日からの遺跡巡りに備えて予習が必要、そうだ、手っ取り早く博物館に行こう。
夜はアプサラダンスを見ながら飯食って、早めに切り上げ翌日に備えて早く就寝しよう。
 
方向性は決まった。
 
ホテルのフロントでアプサラダンスが見れるレストランを予約、そして再び灼熱の外に繰り出し、散歩がてら博物館までブラブラ歩こうと思ったのだが…。
 
多分地図を見る限りではホテルから博物館まで2~3kmほどといったところなのだが、あまりの暑さ、あまりの空気の埃っぽさ、あまりの交通量の多さに心が折れ、そして歩いていると多くのトゥクトゥク・ドライバーから声を掛けられるので、適当なところで妥協してトゥクトゥクに乗り込んだ。
 
交渉すると博物館までは僅か3ドル。
いや、これでも多少は吹っかけられているのかもしれないが、250円で貸切だからな~。
まあ安いもんだ。
 
さてそのアンコール国立博物館だが、入場料はなんと12ドルと高額。
そしてセキュリティーが厳しく、写真撮影不可なのでカメラだけクロークで預ければ良いのかと思っていたら、荷物一式を取り上げられた。
しかしその警備の厳重さが充分に理解できるような充実した内容、更に有料オプションで日本語解説が聞けるレシーバーまで借りることが出来、アンコール王朝の栄枯盛衰と遺跡の歴史的価値や意味や意義を駆け足ながら学ぶことが出来たことは実は翌日からの遺跡巡りに非常に有効であった。
 
充分な知識なくアンコールワットを訪れる人には是非遺跡巡りよりも先にこの博物館を訪れることを勧めたいし、自分自身これから異国の遺跡を訪ねる機会あらば先に博物館(があるかどうかわからないが…)を訪ねようと思う。
 
途中某北東アジアからの旅行者軍団に軽い嫌がらせを受けたり(自分が日本人であるというだけで嫌悪の対象になることもあるということを体感出来ることも海外旅行ならではのことであろう。勿論愉快ではないが、そういうことも含めて時には自分が異邦人になることが自分にとっては大事だと再認識した)もしたが、2時間以上かけてじっくりと博物館の隅から隅まで堪能し、すっかり遺跡へのテンションは上がった。
良い傾向だ。
 
オールドマーケットに戻り、適当なレストランに入って昼食。
東南アジアに来たら一度は食べたい焼きそばをいってみよう!
 
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www!
きしめんどころではない極太麺の登場に面食らったイケメンの俺(スイマセン、ただ韻を踏みたくなっただけです)だが、香辛料もハーブも抑え目ながらしっかりとアジアンテイストが味わえる極上の逸品、タイ料理よりも万人受けしそうですっかりカンボジア(クメール)料理に参っちゃいましたよ。
 
値段は忘れたけど、生ビール2杯つけて5ドルぐらいだったかな?
最高である。
 
食後は歩いて行ける範囲のホテル近辺を徹底的に散策。
こうしてホテル周りの地理を身に沁み込ませるという行為は、滞在している場所を理解し、滞在している場所を通じて滞在している国に慣れる為に非常に有効なのである。
 
そして歩き疲れたらパブストリートに行って適当な店に入れば、どの店でも生ビール1杯50セントで飲める。
ここはビール好きにとってパラダイスである。
そして只の偶然なのだが、このパブストリートから徒歩数分の所にあるホテルを予約した俺は、カンボジアと相思相愛にあるのかもしれないと思った。
 
散々歩いて汗をかいたので、ホテルに戻ってシャワーを浴び、さて夕食はアプサラダンスだ。
 
ホテルのフロントが押さえてくれたのは地球の歩き方にもトップで掲載されていた「クーレンⅡ」。
ビュッフェ(って和製英語は困りものですね)スタイルの夕食付で12ドルとリーズナブル。
ホテルからトゥクトゥクで10分足らずの距離にある。
 
チケットに「18:30 START」と書いてあったので、17:40頃にホテルを出発したのだが、到着した「クーレンⅡ」は体育館のような大箱ながら客が一人もいない。
店員に尋ねると、ビュッフェの開始が18:30、ダンスショーの開始は19:30とのことだった。
 
「・・・。」
 
まるで体育館のような大きなレストラン、キャパは何百あるのか知らないが、確実に言えることは客が俺しかいないということ。
仕方がないのでビールの大瓶をもらってチビチビと飲む。
ビュッフェの開始前なので当然つまみは何もない。
孤独である。
我が敬愛する作家白石一文は「真の孤独は独りでいる時には訪れない」と書いていたが全くの同感である。
多くのスタッフが忙しげに働いているのだが、座っているのは俺一人。
遠い異国の地でいったい俺は何をやっているのだろう?
 
幸いWi-Fiが繋がったので、Twitterやって暇を潰した。
ダンスショーを見るのが目的なので、本をホテルに置いて来てしまったのだ。
 
孤独に耐えながらTwitterをいじり続けて数十分、気付けば大箱「クーレンⅡ」は大入り満席状態、ビュッフェの料理も最高に美味しい訳ではないが普通に美味しくて、なんか楽しくなってきた。
 
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ポル・ポトによって規制され、踊り子の9割以上が虐殺されてしまったというアプサラダンス。
 
この日観たダンスショーは素人目にみても学芸会レベルというか、観光客相手のなんちゃってショーだったけれど、宗教や生活に根差した内容の民間伝承が一人の狂った独裁者によって消滅しかけ、今それがこのように平和に披露されている状況というのはきっとカンボジアにとって良いことなのだろう。
 
なんというか、感動的とまでは言えないものの、感じるところのあるショーだった。
来て良かった。
 
ショー終了後は再びトゥクトゥクにのってホテルへ、そして文庫本を片手にまたしてもPUB STREETへと繰り出す。
 
なにしろビール1杯50セントなのだ、夜ともなれば僅か150m程の短い繁華街は、様々な国籍の多くの人間で満ち溢れている。
 
しつこい(と言っても国際標準ではかなりアッサリめだけど…)ポンビキをかわして一軒の店に狙いを定めると、今度はポンビキではなく酔ってるのかラリってるのか頭がおかしいのかよく分からない日本人に絡まれた。
 
無視して店に入ると、そいつもついてきて俺と同じテーブルに座った。
酔っていっるのかラリっているのか狂っているのかは定かではないが、なんかペラペラ喋ってる。
付き合う義理もないのだが、とても本なんか読める状況ではない。
 
俺のように日本語しか話せない人間が海外で面白い経験が出来るのは、不自由な英語であっても心が通じる人間とは通じるし、母国語同士であっても何一つ理解しあえない人間とは全く対話が成立しないという状況を体験出来ることでもある。
 
「ところで君は学生なのかな?」
別に興味はないのだが、他に聞くべきこともなくそう尋ねる。
「いや、僕は何者でもなく世界平和を実現する為に世界を旅している旅人です~。」
焦点の定まらない眼で、はっきり喋れない口でそう語る若者。
 
そうか。
世界平和は大事なことだと思う。
でも世界を平和にする為には自国を平和にし、自分の属するソサイエイティを平和にし、自分の属するファミリーを平和にし、何より自分自身を平和にする必要がある。
異国で奇行に走る人間には、平和の前にまず自分の安定が必要なのではないだろうか?
 
とりあえず俺は自分のビールを一気に飲み干すと店員を呼び、俺の分だけ代金を支払い、本が読める環境のPUBを求めて店を出たのであった。