カンボジア放浪記~1日目

2013年元旦。
 
前日終電まで飲んでいたが、7時前にはすっきりと目が覚めた。
 
シャワーを浴び、荷物を確認し、ポストから年賀状をピックアップし、こちらが出していないのにも関わらず届いてしまった二人分の年賀状に返事を書く。
 
そして鞄一つ持ち家を出ると、近所の神社にてまずは初詣。
ついでに恒例のおみくじを引く。
 
「大吉」。
 
出足は好調である。
 
そのまま実家に行って両親に新年の挨拶。
神棚と仏壇にも新年の挨拶をし、親子で雑煮をすする。
 
元日の夜に実家で食事を摂るのが恒例ではあったのだが、今年に限って朝食だったのには訳があるのだ。
 
11時過ぎに実家を出ると、電車を乗り継いで成田空港に向かう。
京成スカイライナーに乗るのは恐らく20年振りぐらいだが、北総線を使うルートは思いの外至近であり、新しい車両は非常に快適であり、なにより運賃が安い。
 
ここ10年以上、成田から出国する際は車で空港まで行き、近隣の民間駐車場に車を預けるのが常であったが、この速さ、この快適さ、この安さならばスカイライナーを利用するのもアリだ。
 
空港第一ターミナルに到着、大韓航空のカウンターに行ってチェックインすると、ソウルの悪天候の影響で航空機の到着が大幅に遅れ、俺が乗る折り返し便の出発が1時間遅れると告げられる。
大吉を引いた割にはいきなりつまずいた格好だが、泣く子と地頭と天気には勝てないことをアングラーである俺は良く知っている。
 
旅行、特に海外旅行に於いては予定通りに事が運ばない事態は付き物であり、予想外の事態に対面した時にいかに上手く切り抜けるかが旅行を楽しむコツである。
ハプニングを楽しむ余裕がなければ大抵の旅行は辛いものになるし、飛行機の遅れなんてハプニングにも値しない些末なことなのだ。
 
出国手続きをする前に、北ウイングと南ウイングの間にある銀座ライオンに向かう。
ここには国内空港にしては非常に珍しく、俺が愛して止まない樽生ギネスがあるのだ。
 
「・・・。」
 
メニューにはYEBIS黒生が新たにラインナップされており、代わりにギネスが消えていた。
まあ仕方ない。
不変ではなく、時と共に変わっていくのも飲み屋のメニューなのだ。
 
諦めて生ビールと枝豆&ナチョスのセット1000円也をオーダー、そして買ったきりろくに読んでなかったカンボジアのガイドブックを読んで旅情を高める。
何故だか事前にガイドブックを読むことが苦手な俺にとって、こういうエクストラタイムが与えられたことは実は幸運なのかもしれない。
なにしろ、何処を観たいとか、何をしたいとか、全く考えることなくこの日を迎えたのだから。
 
 
さて1時間遅れで仁川空港へと向けて飛び立った大韓航空機、仁川での乗換時間が40分しかなくなった俺は前方通路側という特等席が与えられた訳だが、この航空会社の飛行機に乗るにあたって俺が最も楽しみにしていたのは、実は機内食なのである。
 
俺の旅行史上最も印象的で、俺の釣り史上最も感動的だったDDVセンパイとのアメリカ鱒釣り紀行、この時に利用したのが大韓航空だったのだが、機内食で提供されたビビンパの並々ならぬ旨さに俺は、いや、我々は大いに感動した。
その感動よ再び!
と、期待が膨らんでいたのだが、成田~仁川線の機内食メニューにビビンパは用意されていなかった。
 
ちなみに乗り換えた仁川~シエムリアップ線にも、帰りの便にも、ビビンパは用意されていなかった。
 
長く生きていれば誰もが経験するであろう「期待は裏切られる」という一般論を、計らずも大韓航空機内で再認識することとなった。
この程度の切なさは人生の至る所に溢れている。
 
中略。
 
仁川で国際線としてはかなり小さな飛行機に乗り換え、1月1日22時過ぎ、遂にカンボジアのシエムリアップ国際空港に降り立った。
タラップを降りると蒸し暑い空気。そして空気以上に驚いたのはターミナルビルから離れた場所で飛行機が止まったのにも関わらず、バスではなく徒歩でターミナルビルへと向かわねばならぬ大らかさである。
 
入国審査では何も聞かれず、税関に至っては係官すらおらず飛行機で配られた申告書を箱に入れるだけ。
最高である。
 
まずはトイレに行き機内で飲んだビールを全て小便に変えて一気に放出すると、晴れて自由の身となった俺は空港の外に出た。
 
客引きドライバー達を掻き分け、俺は空港に集った迎えの人間どもの中から俺の名を書いたボードを持つホテルの従業員を探し、そして見つけ出した。
 
挨拶をし、握手をし、俺一人を迎えにくるには明らかにオーバースペックなマイクロバスに誘われて乗り込む。
 
「ホテルまでは6km、所要は15分程だ」と言われマイクロバス出発!
 
空港を出ると街灯の殆ど無いシエムリアップは漆黒の闇である。
いや~、元日早々来てしまったね、カンボジアに!
 
ホテルにチェックインして荷物を下ろすと時刻は既に23時過ぎ。
 
見知らぬ街で飲み屋を探して歩き回るには、いささか遅すぎる。
 
ホテルのバーで飲むかと思ってウロウロするもバーはなく食堂も全て閉まっており、仕方なく部屋でビールを飲んで妥協することとしたが、部屋の冷蔵庫にあるビールの大瓶はなんとたったの2USドルであった。
 
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生まれて初めて飲むカンボジアビールは薄味ではあったが蒸し暑いカンボジアの気候によくマッチしていた。
 
1本飲み終え、もう1本飲もうか迷う間もなく旅の疲れからくる眠気に襲われ、天蓋付のキングサイズのベッドに潜り込むとすぐに深い眠りに落ちた。
 
比較的眠りの浅い俺には珍しく、翌朝7時まで一度も起きることなく熟睡した。
 
どうやらこの国とはマッチしているようだ。
 
<(多分)続く>