往々にして不運は重なる…3/18小網代・丸十丸

天気予報から雨マークが外れた日曜日、潮が若潮ということもあり、最近カワハギにはまっている友人(仮にA君)を誘って小網代丸十丸のカワハギ船に乗ることにした。
この期に及んでまだカワハギ、釣りバカというより最早ハギバカである。

ところで悪いことは往々にして重なるものである。

この真理は1988年8月に読んだ村上春樹著「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」から学んだものだが、その後の人生においてこの小説のこの言葉がフラッシュバックする場面に何度も何度も遭遇してきた。

この日の釣行もまた、実にそのような展開となったのである。
ことほど左様に優れた小説というのは人生に深く関わってくるものなのだ。


剣崎はほぼ無風、伊豆大島でさえ北東2mという状況、出船前は鏡のような穏やかな海を想像していたのだが、いざ沖に出てみると周期の長くて深いウネリが絶え間無く襲ってきていた。
隣りの船が完全に視界から消えてしまうような深いウネリである。

これは一体どういうことなのだ?
遥か南では凄まじい大嵐になっているのだろうか?

しかし台風が接近している夏の海でシイラを釣った時、港口こそウネリが入って船はダッチロール状態に陥ったものの一旦沖に出てしまえば非常に穏やかだった。
その時以上に気象状況が悪いとは到底思えない。
自然は不思議である。

こんな状況ではオモリを底から50センチ浮かしてアタリをとっていくいつもの釣り方が全く通用しないのであった。

そうだ、こんな時こそタタキ・タルマセを!というのが前回金谷で学習した対処法。
しかし叩こうが弛ませようが魚は外道を含めて一切食ってこない。

船長曰く、前日のシケの影響で水温が急低下、更に潮色も一気に濁ったとのことで魚の活性が下がるのも当然と言った状況であった。

底の釣りをやると、当然根掛かりのリスクは高まる。

ガッチリ掛かってしまったので止む無く道糸を思い切り引っ張る。
何かが切れた感触がしてオモリの重みが消えた。リールを巻いて糸を回収する。
てっきり仕掛けが切れたものと思っていたが、良く見るとサルカンの金属部分がスパッと破断していた。
『何コレ?』
不吉な予感がした。
そして大抵の不吉な予感は外れないという事をこの後身をもって知るのである。

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1枚目のカワハギをようやく手にしたのは出船から1時間以上が経過した9時過ぎのことであった。

2枚目は10時過ぎ。
正に時速1枚ペースである。

色々試してはいる。
それでも本当にアタリを出せない。
エサすら殆ど取られない。

しかし友人(仮にA君)はポツリ、ポツリと釣っている。
手さえ合えば全く釣れない訳ではないようだ。

悩んで悩んで迷宮へと意識が飛び立っていたそんな時、突如足元に轟音が響いた。
何事か思って視線を下げると、何故か散水機のパイプの結合部分が正に俺の立っているまん前で外れ、凄まじい海水が噴出していたのだ!
水の勢いが凄いのと、固定されたパイプの稼動範囲が狭くなかなか繋ぐことが出来ない。
そして繋ごうとパイプ同士を近づけると勢いを増した水が四方に飛び散り、俺の全身を濡らしたのだった。

格闘5分。

どうにか元通りになった時、耐水性の低いウェアを着ていた俺の服は中までびしょ濡れで、激しくテンションが萎えていた。どうやらカワハギ以上に俺の活性が下がってしまったようだ。

時刻は12時。

友人(仮にA君)は6枚釣っているのに俺の釣果は2枚のままだった。
テンションの下がった人間に相応しく、ゼロテンションで漫然としていたら、コツ!というアタリ。
試しに聞き合わせてみると、
“コンコンコン!”
“キターーーーーーーー!”
久し振りの魚の感触!ばらさないように慎重に巻いていると、大量の白いものと茶色い物体がゆっくりと俺の目の前に流れてきた。
それと同時にトイレからミヨシに陣取っていたオバサンがすっきりした顔で出てきた。

「!!!」

どうやらこの女性が排泄した大量の排泄物(柔らかめの為大拡散!)と、排泄口をクリーンアップした水溶性の紙が、折からのゆったりとした上げ潮に乗せて正に大ドモに釣座を構える俺の前に到達したようだ。
そんな汚染された海を俺の大事なカワハギちゃんが泳いで上がってくる!
いやん!どうしたらいいの?
あああ、魚が見えてきた!
あたり一面ウンコとトイレットペーパーだらけだ!
嗚呼、あああ、あああああああああああああああああああああああああ!!!
俺は覚悟を決めて一気にカワハギちゃんを引っこ抜いた!

「…。」
これでカワハギに汚物やら紙やらが付着していたら俺は入水していたかもしれないが、幸い穢れのないお姿をされていた。
俺は魚を締めずにバケツの中で思う存分泳いで頂くことにした。
念の為の入浴代わりである。

そしてホッとしたのも束の間、その直後に仕掛けや変え針類を大量に仕舞っていた俺の道具箱が、何故かカワハギと一緒にバケツの中で泳いでいるという信じ難い光景を目にした。
全仕掛け類が水没である。
涙を堪えて引き上げ、全ての海水を箱から流し出し、少しでも乾かそうと道具箱の蓋を開けて干しておいたら今度は大粒の雨が降り始めた。
最悪である。

ますますテンションが下がり、俺の釣り方もゼロテンション・オンリーになってきた。
しかし、この日の極端に活性の低いカワハギにはこの釣り方が合っていたようだ。

連チャンとまではいかなくてもポツリ、ポツリと釣れるようになり、気が付けば友人(仮にA君)の釣果に追いつき、そして追い越した。

宙からの誘い下げでゼロテンションで喰わす釣り方は結構使うものの、ず~~~っとゼロテンションで待つカワハギ釣りが有効なんて、初めての体験だ。
災い転じて福となす。
結果的に激渋の状況での新たな攻め方を体得したのかもしれない。

最終釣果は11枚、25センチ級が4枚混じりおかずには充分だ。
良かった。

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これに加えてお土産で貰える生ワカメを合わせれば、美味しい鍋にありつける!
しかし前日のシケの影響か、この日お土産のワカメは用意されていなかった。

落胆して帰宅し、道具類を洗っていると、俺の愛用のナイフが見当たらなかった。
どうやら船に忘れてきたらしい。

…。
ね?

悪いことって重なるんですよ。

【釣果】
7時40分出船、15時10分沖揚がり
カワハギ11枚
(外道:トラギス)

【タックル】
ロッド:DAIWA 極鋭カワハギ 1454AIR 
リール:SHIMANO スコーピオンXT1501-7
ライン:PE0.8号

【本日の総括】
10人で釣りして船中4~15枚。
帰港時に船長に聞いたらツ抜け3人と言っていた気がするのだが、HPでは2番手14枚となっていたので11枚という俺の釣果は恐らく三番手、10枚の友人(仮にA君)は四番手と揃って健闘したと言えるのではないだろうか?

前週までは絶好調に釣れ盛っていた丸十丸のカワハギ、シケ後に活性が上がることの多い魚なので爆釣を期待しての出撃だったが、結果的には見事に返り討ち!
まぁそれが釣りでありカワハギだ。

しかし仕掛けを動かさないとエサが秒殺されるカワハギ釣りにおいて、ゼロテンでじっと待つだけの釣り方が有効な局面があるというのは新たな発見だった。
この日自分のテンションが下がらなければ、こんな釣り方試さなかったかもしれないし、振り返ってみれば面白いものである。


季節は徐々に春めいてきている。
鍋を美味しく食べられる季節もそろそろ終焉を迎える。

去り行く冬を惜しみながら、苦労して釣った獲物達を美味しい鍋にして堪能した。

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