嵐を呼ぶタイラバ・・・11/3トレードウインズ

車を所定の位置に停め、タックルの準備をしていると一人の好青年が笑顔で近付いてきた。

もりしげさんですよね?」
「?」
俺は死にかけの昭和の名俳優でもなければジギーのボーカルでもない。
曖昧に口ごもる俺に、
「はじめまして、ぽこたにです。」

・・・なんと!ブログを通じて知り合い、相互リンクもして頂いている池田船長のまな弟子、ぽこたにさんと同船とは!

船で一緒になった方とその後ブログを通じて知り合ったケースはcalmさん、アルベルトさんといらっしゃるが、ブログで知り合った方と現実世界で邂逅するというのは初めての体験だ。
ネット世界に生きる仮想存在としての俺のアバターと現実の俺が出会ったような、今まで体験したことのない不思議な感覚を味わった。

40歳を過ぎてこんな事を言うのも憚られるが、俺はどちらかと言えば人見知りする方で初対面の方と上手く話せない事が多い。
ぽこたにさん、ぶっきらぼうな対応や、変な応対をしていたとしたらスイマセン。そういえばキチンと挨拶すらしていなかったですね。
次回ご一緒する機会があれば(ありますね…)本名でちゃんとご挨拶申し上げます。

さて、出船前に釣座を決めるジャンケンポンをしたらジャンケンに滅法弱いはずの俺が何故か勝ってしまった。

・・・。

実力のみならず運も大事なタイラバ、こんなことで運など使いたくもなかったのだが、“今日の俺は滅法ツイているのだ”と思い直すことにした。
なにしろ釣れない釣り、いくら俺が根っからのペシミストであろうともネガティブな思想はご法度だ!

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満月と富士山を西に望みながらポイントへ向かう

・・・。

・・・また荒れた。

天気予報が見事に外れ、観音崎沖の東京湾では風速15m超の猛烈な北風が吹き荒れ、当然の事ながら海も荒れていた。

2mクラスの高い並が次々に押し寄せ、左舷ミヨシに釣座を構えた俺は度々潮を被る羽目に陥ったのだった。

そして冬型の気圧配置がもたらす低温、本格的に寒い!

やばい、また思考がネガティブな方向に行ってしまった。

俺が初めて鯛を釣ったのは、予約していたトレードウインズが荒天の為に出船中止になった日に代わりに乗った野毛屋の船だったではないか!

俺は嵐に強い、俺は嵐に強い、俺は嵐に強い・・・。

もうこうなりゃヤケクソの自己暗示だ!

開始後程なくぽこたにさんが小型ながらも本命を釣り上げた!流石は池田船長のまな弟子である。

感心してばかりもいられない、俺も釣りを続ける。なにしろ船が激しく上下に揺れるので、一定の速度でリトリーブしているつもりでも、ジグは変則的に動いているのではないだろうか?と不安になる。いつも以上に丁寧なリトリーブを、と思っても、激しい揺れの為巻くだけで精一杯だ。

その時は唐突に訪れた。

底から5m巻き少しリトリーブ速度を上げたその刹那、
“ゴンゴンゴン!”
「!」
“ズンッ!”
「キタアアアアア~~~~~!」
激しく竿が叩かれた直後に一気に絞り込まれる俺の竿、猛烈に頭を振りながら潜り込もうとするこの引きは間違いなく真鯛、それも大鯛だ!
「お、デカイのキタねえ~!」池田船長も操舵室から出て来てタモを掴む。

糸が不吉な音を立てる。間違いなく今まで釣ったことのない大きさの魚だ。

DDVセンパイが俺の目前で釣り上げたの4.2kgは超えるかな~、などと思っていたら、
“ブチッ!”
「ブチッ?」

・・・。

まさかの高切れ、PEがブレイクしてしまった!
“ガビーン!”(死語中の死語)

「今の3kg以上は絶対にあったと思うんですけど・・・。」と、2.8kgまでしか釣ったことのない俺はボソッと呟いた。
すると、
「3kg?今のは4kgどころじゃないって感じだったけどねえ。」と池田船長。
逃がした魚は余りにも大きく、魚がくわえて行ってしまったルアーは余りに高い。

ああ、俺の獲物があ~~、ああ、俺のサンスイ・オリジナル・マック・ブレイン3500円也があああ~~~~~!

「しかし何で切れたかな~。ちょっとタックル見せてよ。」と船長。力無くタックルを渡すと、「うわ、コレはドラグ締め過ぎだよ!いつもこんなんでやってるの?」

「・・・。」

忘れていた。2日前にカワハギ釣りに行ったことを。そしてその時にガチガチに締めたドラグのことを・・・。

「人間、失格・・・。」
は言い過ぎだけど、アングラー失格の愚行だったかもしれない。
しかし、自分のせいなら諦めるしかない、切り替えて次の獲物を狙おう!

キャビンに戻ってライン・システムを組み直していると、池田船長が
「俺も何度も糸切られたことありますよ。」
「実際に切られてみないと分からないことだってあるからねえ。」
と哲学的に慰め励ましてくれた。
良い樵には一カ所だけ傷があるという。
物事の良い側面を見れば、このラインブレイクによって俺の経験値が上がったということだろうか。

しかし戦線に復帰していた俺を待ち受けていたのは更なる試練だった。

根周りを攻めている時に俺のマック・ブレイン80gアワビ貼りがガッチリと完璧に根掛かり、どれだけ竿を煽ってもその固い決断は揺らぐことなく、ついには再びPEが高切れしたのであった。

ガックリとうなだれ、再びキャビンでライン・システムを組み直す。
家で結べば10分かからず完成するFGノットも、激しく揺れる船上では倍以上の時間がかかる。
「普段どうやって結んでるの?」と池田船長。FGノットだと答えると、家で結ぶならいいけど、船上では時間が掛かりすぎるライン・システムは駄目だとのこと。
そして俺のリールとリーダーを取り上げると、オリジナルの池田ノットを目の前で実践してみせてくれた。
それは変則的な電車結びにハーフ・ヒッチを加えて編み込んだだけのシンプルなもの。所用時間も僅か5分だ。それでも「どんな大鯛が来ても抜けた事がない」と言い切る!

物事の良い面をみよう。

確かにタングステン製のラバージグを立て続けにロストすると痛い。
でもそのお陰で俺は池田ノットを覚えることができたではないか。

さてその後ぽこたにさんが小型真鯛を追加キャッチ。
そして右舷胴の間で竿を出していた常連のTさん(この方とは先日野毛屋のスミイカ船でもお会いした)が大鯛を掛けたものの無念のバラシ、潮が上げ潮に変わってからは船中アタリすらなく13時に沖揚がりとなった。

激しい向かい風を受けながら走る船は徐行を強いられ、帰港までに1時間半以上を費やした。

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途中中の瀬でスミイカ釣りを楽しむ一之瀬丸やあさなぎ丸を恨めしく眺めながら、この借りは次回必ず返さねばならないと俺は心に誓った。

船を降りる際に「また頑張りましょう!」と池田船長が笑顔と最敬礼で見送ってくれた。
勿論、頑張りますよ!

そしてぽこたにさん以下同船させて頂いた皆さんに挨拶をして車を出すと、俺は家ではなく川崎サンスイへと向けて車を走らせたのだった…。

【釣果】
5時出船、13時沖揚がり

【タックル】
ロッド:ZENITH零式 LIGHT G-TOP L 
リール:シマノ カルカッタ・コンクエスト301F
ライン:PE1号、ハリス:フロロ5号

【本日の総括】
激しいウネリのお陰で40歳の弱った足腰はガタガタ、ただ釣りをしていただけなのに翌日は右足ふくらはぎが筋肉痛になる始末だった。
精神的にも肉体的にも辛い釣りとなったが、経験値が上がったことは間違いないし、得たものもあったと信じたい。

タイラバでの乗船定員6名のトレードウインズ、大型乗合船に比べて乗船料は高いけれど、小型船ならではのアットホームな雰囲気と、本命を釣り上げるチャンスの多さはやはり魅力だ。

それにしても今日は惜しいことをした。
でもこの船に乗り続けていれば、いつかとんでもない獲物に出会えるに違いない。
そう思わせてくれるのだ、トレードウインズは。


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真鯛フルコースの予定が一転、冷凍保存していたスミイカがこの日の夕食となってしまった。