ピン飲み放浪記
20代の終り頃、一ヶ月の三分の一くらいは静岡方面に出張に出ているような生活が2年ばかり続いた時期があった。
国内国外を問わず、旅に出たら極力地元の食材や料理を摂取することを身上としている俺の「地の物フェチ」気質は、出張生活を続ける中で出会った静岡の旨い料理たちによって育まれたと言えよう。
アジや金目ダイの刺身に開眼したのも静岡だし、外道の代表格みたいなボラが刺身で食えることを学んだのも静岡だし、この世の中に黒はんぺんなる食材があることを教えてくれたのも静岡だし、新鮮な生しらすと桜エビの“一口で大量の命を摂取する”背徳的な旨さを知ったのも静岡だ。
ビバ、静岡。
しかし毎月毎月出張生活を続けていると、往々にして困った事態に陥ることになる。それは、一緒に飲みに行く相手が見つからない、ということだ。
仲良くなったお客さんとか、同業者の仲間なども出来、出張先での飲み仲間には事欠かなかったのだが、それでもいつでも飲み相手が見つかるかと言えばそうもいかない。
“じゃあ飲みに行かなければいいじゃん”と思われるかもしれないが、当時の俺にとって夕食とは一日の疲れをほぐす為に美味しく酒を飲むという大事な儀式であり(あ、今でもそうだ)、酒を美味しく飲むためには美味しい料理も二次的に必要になってくるという類いのモノである。
そんなひとりの夜は、コンビニで弁当を買ってホテルでビールを飲んだりしてやり過ごしていたのだが、こんなことをしているとたまにメランコリーに襲われ死にたくなってきたりして非常に困った。
この時も出張先で飲み相手がみつからなかったある夜、俺は意を決して地元の酔客で賑わう焼鳥屋ののれんをひとりくぐった。当然カウンターに通されるものとたかをくくっていたら、カウンターは常連客が埋め尽くしていた為になんと4人掛けの座敷席へと通されてしまった!生まれて初めてのピン飲みが座敷。これは厳しい!とりあえずビールとツマミを何品か頼んだのだが、落ち着かなくて味なんてわかりやしない。自意識過剰なだけかもしれないし、本当にそうだったのかもしれないけど、他の客や店員の変な視線を妙に感じるような気がする。
早々に退散するのが得策だと百も承知していたのだが、なんとか大人の余裕を演出しようとした俺は、若気のいったりきたりで芋焼酎のボトルをオーダーするという愚行に及んでしまった!
・・・。
当然の如く一本空にする前に泥酔してしまった俺は、二度と訪れることがないとわかっていたにも関わらずボトルをキープして店を出ると、サウザント・バード・ウォークでホテルへふらふら歩き、ベッドへと昏倒したのだった。
早々に退散するのが得策だと百も承知していたのだが、なんとか大人の余裕を演出しようとした俺は、若気のいったりきたりで芋焼酎のボトルをオーダーするという愚行に及んでしまった!
・・・。
当然の如く一本空にする前に泥酔してしまった俺は、二度と訪れることがないとわかっていたにも関わらずボトルをキープして店を出ると、サウザント・バード・ウォークでホテルへふらふら歩き、ベッドへと昏倒したのだった。
・・・。
今ならわかる。
地元のサラリーマンの憩いの場所に、余所者の若造がひとりで入っていったら浮くに決まっている。
でもそれ以上に、こちらが本当に自然体だったら、こちらが本当にリラックスして飲んでいたら、きっと店員も常連も適度に放っておいてくれるだろうし、或いは簡単に一言二言交わしたりすることも至極当然にできるだろう。
要はあの日失態を演じたのは己の若さ故、ってところだろう。
でもそれ以上に、こちらが本当に自然体だったら、こちらが本当にリラックスして飲んでいたら、きっと店員も常連も適度に放っておいてくれるだろうし、或いは簡単に一言二言交わしたりすることも至極当然にできるだろう。
要はあの日失態を演じたのは己の若さ故、ってところだろう。
最近では初めての場所で目に付いた居酒屋にひとりで入る事に何の抵抗も無くなった。
これも人生経験のお陰だろうか?
そう考えると年を重ねることも悪い事ばかりではないと思うのだ。
これも人生経験のお陰だろうか?
そう考えると年を重ねることも悪い事ばかりではないと思うのだ。
さて先日、横浜の関内で夕方に仕事を終える機会があった。
都内北部に位置する会社に戻る為には、都内南部に居を構える俺の自宅近くをかすめて行く事になる。
都内北部に位置する会社に戻る為には、都内南部に居を構える俺の自宅近くをかすめて行く事になる。
出先→自宅近く→会社→自宅と同じ区間を行ったり来たりしつつ長い距離を移動するのは人生における大いなる無駄の一つではないだろうか?
そんな壮大かつ卑小な疑問を抱いてしまった俺は適当な理由を拵えて直帰の連絡を会社に入れると、かねてより気になっていた横浜の歓楽街、“野毛”へと赴いたのだった。
まだ日も沈まぬ内から大勢の客で賑わっている野毛エリア。町を散策しているだけでテンションが上がる!そしてどの店も非常に魅力的に見えるのだ!
俺は高揚しながら野毛を隈なく徘徊、すると一軒の異様な異彩を放つ立ち飲み屋を発見したのだった。
看板には一言「フライ屋」と書かれているのみ。しかし客は店先の路上にまで溢れ、更に入り口付近では白人のメタボリック中年男性が串揚げを肴に日本酒を呷っているという大スペクタクル。
俺は重力に引っ張られて地面に落ちるリンゴよろしく店内へと吸い込まれた。
俺は重力に引っ張られて地面に落ちるリンゴよろしく店内へと吸い込まれた。
堪らずビールおかわり!
次いで牛スジ煮込みとレモンサワー。
・・・。
・・・・・・。
う、う、う、うま~い!!!
・・・。
・・・・・・。
う、う、う、うま~い!!!
口直しのお新香とレモンサワーのおかわり頼んでお会計。
こういう店での長居は無粋だ!適度に満足したらとっとと退散するに限る。
こういう店での長居は無粋だ!適度に満足したらとっとと退散するに限る。
決して“手際良い”とは言えない牧伸二似のお母さん(おばあさん?)の接客も、彼女の笑顔とホスピタリティのせいだろうか、何故か心温まる。
非常に満たされた気分で店を出たのだが、気分が良すぎてもう少し飲みたい気分な気分。
で、駅とは反対方向に向かうと先程の年季の入ったフライ屋とは正反対の小奇麗な立ち飲み屋発見!
若夫婦らしき男女が取り仕切る店の名は「よりみち」。なんか今の俺にピッタリだ!
若夫婦らしき男女が取り仕切る店の名は「よりみち」。なんか今の俺にピッタリだ!
すっかり満たされて帰路に着いた俺。
ふと思ったのだが、金沢八景で釣宿を営む黒川さんが自分の店に“野毛屋”と名付けたのは、野毛を愛する余りってことなのかな?などと考えてしまった。
いや~、いいなあ横浜。
・・・。
ところで今20代末期のような静岡出張生活をもう一度送ることができたら、もっともっと楽しめるだろうな。
でも人生とは理不尽な一方通行、俺の都合で生きる順番など決められないのだ・・・。
でも人生とは理不尽な一方通行、俺の都合で生きる順番など決められないのだ・・・。
【追記】
帰宅後調べると、何の気なしに入った「フライ屋」の看板の店は通称“福田フライ”という野毛の名店中の名店であることが判明した。予備知識なしだったので数々の必食メニューを頼んでいなかったようだ!
要再訪!!!
帰宅後調べると、何の気なしに入った「フライ屋」の看板の店は通称“福田フライ”という野毛の名店中の名店であることが判明した。予備知識なしだったので数々の必食メニューを頼んでいなかったようだ!
要再訪!!!