オフショア第二弾…12/23野毛屋

船酔い、臭い、その他諸々のネガティブな要素も、一旦乗ってしまったら全て吹き飛んでしまった船釣り。すると色々やってみたくなるのが人情ってもんだ。

弊社が誇るチョイワル・アングラーH氏(61)は、最近3mを超えるロング・ロッドを振り回す豪快なアオリイカ・ボート・エギングにはまっているという。そのチョイワルH氏が釣り仲間と共に23日にエギング船に乗るというので俺も誘われた。日本発のルアー・フィッシングであるエギングにはかねてより興味があった上、今の俺は船に乗りたくてたまらない!というわけで二つ返事でOKし、ご一緒させて頂くことになった。
今回お世話になった船宿は、ロング・ロッド・エギング発祥の船宿、金沢八景・野毛屋。出船が7時15分と早く、沖あがりは16時と遅い為長い時間釣りが楽しめる反面、船酔いなどしようものなら地獄ですじゃ。
“竿と仕掛けは貸してやるからリールとエギだけ持って来い”とチョイワル氏。チョイワル氏自身この釣りが三度目だというのに、何故俺に貸せる竿があるのか?
初めて野毛屋に行った時のチョイワル氏はメバル竿で挑んだらしいのだが、周りのアングラーが振り回しているロング・ロッドが羨ましくなり、翌日速攻で3mの竿を購入したらしい。この野毛屋の船長が監修したオリジナル・ロング・ロッドには3mと3.5mの二種類がラインナップされているそうなのだが、3mロッドを携え二回目に野毛屋に行った際、他のアングラーが使っていた3.5mが羨ましくなり、更に即買いしたそうなのだ。ということは、俺が借りる3mのロッドはチョイワル氏自身も一度しか使っていない新品同様の竿ということになる・・・。
・・・バカである。途方も無い釣りバカだ!でもその馬鹿さ加減が全く笑えない最近の俺。むしろちょっと愛おしいくらいだ。

当日、気持ち早目に家を出た俺は6時頃現地に着いてしまった。さすがにちょっと早過ぎたかなと思ったものの、チョイワル氏は既に到着しており、三人分の釣座を確保しておいてくれたのだ。釣座による有利・不利の差が激しいという船アオリ、先着で受付の脇にある番号札を取って船に乗る前に釣座を決めるそうで、釣り客の立ち上がりも早いのだ。
チョイワル氏の元部下にして現釣り仲間のKさんは電車でくるので出船ギリギリの到着になるらしい。聞けばこのKさん、俺も仕事で付き合いのある会社にお勤めとのことで、だったら共通の知人の一人や二人はいるだろうとちょっと安心。
なにしろ話題の少なさに定評がある上に当たり障りの無い会話が苦手な俺は、初対面の人間が牛乳と同じくらい苦手なのだ。

Kさんが合流してすぐに、我々は船に乗り込んだ。
釣り座を構えると、すぐにタックルの準備に取り掛かる。が、なにしろ3mものロング・ロッド、ガイドにラインを通すのも一苦労だ!チョイワル氏から中オモリとハリスを拝借し、なんとかセッティング完了。しかしこんなに長い竿を上手く扱えるのだろうか?

風が強く、海はやや荒れ気味だが、うねりをものともせず船は疾走。そして30分程でポイントに到着した。
まずは船長から仕掛けのセッティング、タナの取り方、エギのしゃくり方、イカの取り込み方について一通り説明があった。そして船長のタナの指示を合図に実釣開始!チョイワル氏のレクチャーを受け、あとは見様見真似でしゃくっていると、船長がやってきて「ダメダメ、そんなに優しくしゃくってたら!」と俺から竿を取り上げ見本を示してくれた。「こうやって音がするくらい鋭く、そして4秒だったら4秒に一度、5秒だったら5秒に一度と自分で決めたリズムをキープしてしゃくり続けるんだ!」とだみ声でのたまう。船長から再び竿を受け取り再開。かなり肉体的にハードな釣りだ。そして「38!」「40!」「36!」といった具合に船の動きに合わせて船長の指示タナもコロコロ変わる!その度にラインを出したり巻いたりして調整するのだが、だんだん自分が正しいタナを攻めているのか不安になってくる。
ノリが悪いと見ればポイントの見切りも早く、船は度々移動する。そして新たなポイントに到着すると、また船長の指示通りのタナをしゃくり続ける。
誰かがヒットする度に船長が「ホラホラ、きたぞ!」とか「またノッタぞ!」と絶叫する。見渡すと、左右のミヨシの客だけが釣っており、その他は誰の竿も曲がっていない。潮上有利ということで、やはり釣座が釣果に影響することは否めないようだ。「周りで誰かがノッタら、しゃくりを多めにするんだ!」とチョイワル氏。アオリイカは群れをなしているので、一人がのせると周りのアングラーにも連続してのるらしいのだ。というわけで冬型の気圧配置がもたらす低温も、北風がもたらす高いウネリも全く気にならない程に俺は激しくしゃくり続けたが、アタリすらない忍耐の釣りが続く。
なんの反応も見返もないのに、ひたすらしゃくる、しゃくる、しゃくる。自分が正しいことをしているのか自信が無くなってきても、しゃくる、しゃくる、しゃくり続ける。すると段々自分の人生が無意味に思えてきて死にたくなってくる。
それでもひたすらしゃくり続けないことには自分の存在意義がなくなってしまうのだ!さっき肉体的にハードな釣りだと書いたけど、実はより精神的にハードな釣りでもあるのだ!
心が折れ気味でだんだんしゃくりのペースも落ちてくる。だって何時間もしゃくり続けているのにアタリすらないんだぜ?すると俺の心を見透かしたかのようにチョイワル氏が「お前なあ、この釣りにはアタリなんてないんだよ。のるかのらないかしかないんだよ。」とまるで禅問答のようなことを言ってくる。Kさんも「国産のアオリは1キロ三千円くらいする高級品だから、簡単には釣れないんだよ。」と今が特に異常な状況なのではなく、アオリ釣りにおいてはごく普通の光景であることを強調する。
・・・。凄まじい、いや、本当に凄まじい釣りだ。カワハギなら釣れなくとも頻繁にアタリはあるし、少なくとも外道なら釣れまくる。管釣りなら釣れていない時間でも、そこに確実に魚がいることは分かっているのだから、なんとか釣ろうとあらゆる手を尽くす。
でもこの釣り、イカがいる確信なんて全くないのに、竿をしゃくり続けなくてはならない。しかも5秒に一回しゃくるとすれば、1分で12回、10分で120回、1時間で720回もしゃくることになる。その間イカからのコンタクトは皆無に近く、数千分の一の確率の出会いを信じてしゃくり続けるのだ。俺は年末特番の大間のマグロ漁師に自分を重ね、心が折れぬように自分をドラマのヒーローに見立てた。

・・・。

何も起こらないまま陽が傾いてきた。

・・・。

「あ~あ・・・。」
一番先に心が折れたのはチョイワル氏だった。
声高にボヤいて竿を船縁に立てると、横になって眠ってしまったのだ。でも俺は知っている。“釣りの神様は最後まで諦めない者に微笑む”ということを。

そしてついにその時が訪れた。
それはこの日の2,753,764回目のしゃくりを入れた瞬間だった。「ズンッ!」という衝撃が両腕に伝わると、3mのロング・ロッドが根元から絞り込まれたのだ!
「キタ~~~~~~~~~!」
全力でリールのハンドルを巻く。「?」なんかドラグが滑るだけで全然ラインが巻けていないような・・・。なんだ、根がかりかよ!俺は落胆してラインを手繰り寄せると、手にタオルを巻いて引っこ抜く。するとずっしり重いラインが持ち上がるぞ?「???」ドラグを締めて巻き直すと、おおおおお、のってる!なんかのってるよ!エギにはカエシがついていないので、テンションを緩めるとバレちゃうから気をつけろとチョイワル氏が一番最初与えた注意がコレ。今、相当の時間テンション緩めちゃったけど、大丈夫か?
中オモリが見え、ついでイカの姿が見えてきた。危ねえ、エギが足一本にかかっているだけだ!すると隣のKさんが「待て!取り込んじゃダメだ!」と言ってタモを持ってきて取り込んでくれた。やった!
操舵室から船長が顔を出し、「釣れた?よかった~。」と満面の笑みで話し掛けてきた。「よかったね」という上から目線ではなく、「よかった」と一緒に喜んでくれる船長の気持ちが非常に嬉しい。武骨で荒々しいけど、男気溢れる優しい人なのだろう。

そしてこの1ハイのアオリイカが我々三人の釣果全てだったのだ・・・。



【釣果】
7時15分出船、16時沖あがり
アオリイカ 1ハイ



【タックル】
ロッド:借り物
リール:カルカッタ・コンクエスト301F
ライン:PE1.5号、ハリス:フロロ6号


【ヒットルアー】
ヤマシタ キュウセン3.5


【本日の総括】
一言で言えば男気溢れる豪快な釣り、といった印象だ。竿頭11ハイ、船中43ハイ、船長いわく悪くない釣果らしい。しかし我々が陣取った右舷には8人のアングラーがいたのだが、その内実に5人がボウズ。本当に恐ろしい。
一口に“船釣り”といっても、種目によってこんなにも異なるのだから釣りは奥が深い。なんかヤバイ世界に足を踏み入れてしまったような気がするが…。
あ、一つだけカワハギ釣りと共通点があった。それは“釣って楽しい食べて美味しい”ということ。新鮮なアオリイカの刺身って、とんでもない美味だ!
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やるよ、俺は。