田代まさし考

嗚呼、六厘舎でつけ麺食いてえ。
でも1時間半も並びたくねえ。

・・・。

欲求と面倒臭さの狭間で揺れに揺れた俺は、とりあえず蒲田の極太麺ラーメン店をはしごするという愚行に及び、打算的に手を打った。

まず一軒目は「ラーメン大」。
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ラーメン二郎の系列のなかでも『堀切系』に分類される店だ(俺は二郎愛好家ではないのでこの辺は詳しくないが)。時間帯によっては行列ができる店なのだが、この日は運よく空席がありあっさり着席。ラーメン普通盛りと魚粉の食札(券じゃなくてプラスチックの板なのだ)を買い求め、更に無料オプションでニンニクを少々。
六厘舎にも引けをとらない極太麺が美味。そして素材の旨味がとんでもなく凝縮された濃厚ダシの六厘舎のそれとは異なり、ダシと化学調味料の双方が激しく主張する強烈なスープ。初めてたばこを吸った時のような背徳的な雰囲気すら感じるその“身体に悪いことしてる感”は、俺のような(39歳6ヶ月の)中年に決して相応しいものではない。でも旨いんだよな。
満足感の中に若干の気恥ずかしさを内包しながら俺は店を出た。

そして腹ごなしに駅ビルで買い物をしてから次に向かったのは「一麺入魂ラーメン潤」だ。
新潟の燕三条系(というジャンルがあるらしいんですよ、この業界には。)ということで名を馳せているこの店、俺は初めての訪問。ここでもラーメン普通盛りの麺固めをオーダー。
(麺類は 何食うときも アルデンテ  一茶)

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運ばれてきたラーメンを見てまず気が付くのがここの麺も非常に太いということ。
そしてラーメンの具としては非常に珍しい岩ノリと、大量の背脂がカモフラージュしておりパッと見て分からなかったが刻んだタマネギが乗っているのが特徴的だ。
一口食べると背脂ギトギトの見た目から予想される味に反し、魚ダシのあっさりとした旨さを感じる。
一方敢えて固めでオーダーした極太麺は予想に反しかなり柔らかめ。これなら次回は超固めにした方が良さそうだ。
相対的に言えば俺の好みの味だし、オリジナリティも高い。俺は膨らんだ腹を押さえながら非常に満足して店を出た。隣の客が食べていたつけ麺も実に旨そうだったので近日中に再訪したい。

しかしラーメンという食べ物は実に破壊力がある。翌朝測った俺の体重は前日比1.2キロ増しだった。
年齢を重ねるにつれ肉体的にも精神的にもプリミティブなリアクションは薄れ、鈍く退化していく。しかし体脂肪はむしろインプットに対してビビッドに反応するようになってくるのだから、人生は切ない。

話しは変わるが俺の身長は170センチ。大学入学時の体重は50キロだった。しかし20年に及ぶ連続飲酒と不摂生が祟り、現在は65キロ。しかも若年時に比べれば基礎代謝が著しく落ちており、この体重を維持する為にもそれなりの努力を払わねばならないのだ。

結婚後食生活の変化と新たなストレスが誕生したことで、一時俺の体重は70キロに迫った。そしてその時ようやく一つの真実に気が付いたのだった。
食べたいものを食べたいだけ食べられる時代は終わったのだ、と。
そうなると炭水化物・脂肪・塩分を一度に大量摂取可能なラーメンこそが最大の敵となった。
まず俺は飲んだ後のラーメンを止め、次に夕食としてのラーメンを極力廃し、次第にラーメンそのものの回数を減らした。
こうして俺とラーメンの蜜月は終焉を迎え、まるで関係を絶った不倫相手に対するようなクールな間柄になっていった。


月日は流れる。


夢のようなアメリカ鱒釣り旅行から帰国し、短い夏休みを終えた俺を待ち受けていたのは仕事につぐ仕事、そして同時進行で勃発したいくつかのトラブルだった。
更に追い撃ちをかけるように愉快ならざる場所に引きずり出され公開処刑的に辱めを受けるという事態にまで巻き込まれ完全メランコリー、俺は頂点から一気に奈落の底に落ちたような気分を味わった。
こんな時こそ釣りをするべきだが休日出勤が続き時間が作れない。スタジオで爆音を鳴らしたくてもメンバーの都合が合わない。
そんな事情もラーメン熱を後押しする要因になったような気がする。

しかしこうして書いているとラーメンとはまるで麻薬のようだな。
「自分が弱かった」と加勢大周は言ったそうだ。
・・・。
なんとなくわかるよ、その気持ち。