アメリカの鱒釣り・・・第三章

早朝のマクドナルドBISHOP店のカウンターは、還暦をとうに越えたようなおばあちゃんが一人で切り盛りしていた。俺は日本で朝マックする時と同様、ソーセージエッグマフィンとコーヒーのセットをオーダー、一方DDVは恐らく日本にはないブリトーのセットをオーダーした。
そして淡々と朝食を済ませると、俺達はUS-395を軽く南下した後に右折、CA-168を西に向かって走らせる。初日のLONE PINEで手に入れたフリーペーパー「2008 EASTERN SIERRA FISHING GUIDE」によれば、この州道の果てに大物トラウトが釣れる湖があるという。
延々と登り坂が続きどんどんシエラ・ネヴァダに迫って行くこの道も、とんでもない絶景ルートだ。しかし砂漠と岩山しか見えないこの先に本当に湖があるのだろうか?いくらガイドブックに書いてあろうともこの風景を見ているとこの先に湖があるなんてとても信じられない。
と、唐突に舗装路が終わる。しかしそれでも湖らしきものは見当たらない。一本道だから道を間違えるはずなんてないのに、どこかで致命的なミスを犯してしまったのではないだろうか?と不安になる。それでも先へと進んでいくと唐突に駐車場が現れた。しかし車はただの1台も駐まっていない。まだこの先も若干道が続いていたので、その短い坂を登って本当の行き止まりまで行くと、突然それは姿を現したのだった!
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唐突に現れたLAKE SABRINA。自家用ボートはここから湖面におろす。

BISHOP CREEK CANYONと呼ばれるこの一帯は、文字通りに川の流れがシエラを削ったことによって出来た渓谷だ。そんな中に位置するこのLAKE SABRINAもいかにも峡谷の中の湖といった風情で、三方を険しい山に囲まれている。大きさは前日のヨセミテの湖よりは大きいが、芦ノ湖中禅寺湖のような大きさではない。ネイティブ経験の乏しい俺の知る限りでは奥日光の湯の湖に近いサイズといった感じだろうか?湖岸には多数のボートが係留されており、主なポイントは沖であることが窺える。ウェイダーを持っていない俺達が陸っぱりで釣ることができるのだろうか?一抹の不安がよぎるがここまで来たらもうやるしかねえ!
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LAKE SABRINA全景。ここもまた最高のロケーションだ!

三方を切り立った崖のような山肌に囲まれたこの湖は、ポイント移動が非常に困難を伴う。俺達は急斜面をヨロヨロと歩き、出島のような場所までたどり着くと早速竿を振り始めた。ここで困ったことがもう一つ。このポイントでアメリカ人の青年二人が先行して釣座を構えていたのだが、そのいでたちたるやジャケット、ニット帽、グローブと完全防寒装備。多少の寒さなどものともせずTシャツ・短パンで平気なアメリカ人がこの重装備、つまり目茶苦茶寒いのだ!一方俺はTシャツにトレーナーの軽装。はっきり言って寒くて釣りにならねえ!ここも標高2000mを越える高地、更に切り立った山に囲まれる地形が災いし、8時を過ぎても太陽は全くあたらず、湖面全体が日陰になっている。それに加えて容赦なく吹きすさぶ寒風!手がかじかみ、気が付けばツツツと水っパナが垂れてきたりして、俺は度々釣りを中断して屈伸運動や小走りをして原始的に身体を暖める。魚影も確認できずアタリすらない。我慢大会のような悲惨な釣りが続く。
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寒風に立ち向かいロッドを振り続けるDDV氏。まるで貸切

隣のアメリカ人二人組はスピニング・タックルを二本ずつに加え、フライ・ロッドまで持ち込んでいる。しかもスピニングの内一本ずつは餌かワームか集魚材か知らないが置き竿だ。しかし「ルアー、置き竿、フライ」と三通りの釣り方で攻めているにも関わらず全く釣れておらず、『ここ本当は魚いないんじゃないの?』という気になってくる。
極寒ノーフィッシュ地獄が1時間以上過ぎた頃、ようやく山の上から太陽が顔を出しはじめた。すると今度は一転、雲一つ無い快晴が強烈な陽射しをもたらし、暑いくらいだ。
程なくしてようやく隣のアメリカ人にヒット!サイズはあまり大きくないものの、その余りにもオーバーな喜びように、やはりここで釣ることの難しさを思い知らせる。しかし兎にも角にもここに魚が確実にいるという事実は証明されたわけだ!
湖面に陽が射したことで活性も上がってきたかもしれないと思い高活性時の定番色、本ツアー初登場となるPURE5.0の赤金をチョイス。向かい風に負けないよう低い弾道のキャストで扇形状に攻めていたら、遂に俺のロッドが弧を描いた!「フィッシュ!」冷静を装いつつも顔はニヤケてしまう。
サイズは小さくてもここのトラウトも本当に綺麗な魚体をしている。
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足場が悪く取り込みに苦労したので早めに撮影。

これがアタリ・ルアーかと思いきや、そう甘くは無いようで昨日のような連発はない。PURE5.0の他の色を一通り試しても成果が得られないと、続いて馴染みのオリ工ン4gでローテーションを行う。しかし魚の反応は全く無い。そんな深みにハマっている時「キタッ!」とアメリカに似つかわしくない日本語が右から聞こえてきた。おお!DDVの竿が急角度に絞り込まれているではないか!俺は自分の竿を置いてランディングネットを握り駆け寄る。しかし残念ながら魚体が見える前にバラしてしまった。使用ルアーを教えて貰うと、なんとエリア用のクランクとのこと。よし、俺も!とまずはネイティブ用プラグを、数が少ないのですぐに行き詰まり、次いでエリア用プラグを大きいものから試す。で、タックル・ハウスのシケイダー使っていたらホントに掛かっちゃったよ!
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サイズもなかなか。全くもって何が幸いするかわかりませんな、この世の中。

広大なネイティブ・フィールドだけに、エリア以上にドンドン移動するべきだとは頭ではわかっている。しかし先にも述べたようにこの湖は切り立った斜面に囲まれている為非常に足場が悪く、物ぐさな俺はどうにも場所を変える気がおきなかった。(物ぐさ故にトイレに行くのも面倒臭く、極限まで我慢した揚句木陰に隠れて立ち小便までした。まさかアメリカでは立ち小便が重罪ってことはないだろうな…?)
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出島の突端に立ち、沖を攻めるDDV先輩。絵葉書みたいだな…。

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DDVが盗撮した俺。迫り来る山肌のスケールが伝わる!

結局この後PURE5.0とBUX5.1で1尾ずつ追加したに留まり、正午過ぎに修復不能バックラッシュをおこしたのを機に納竿した。一方DDVは駐車場近くのボート係留ポイントで暫く粘ったもの………………。

我々は午後1時頃完全撤収、全く面白みの欠ける車FORD FUSIONに乗り込むと、強烈に後ろ髪を引かれながらも渋々と南へと進路を取ったのだった。
何故夕まずめまで待たなかったのか?それは今宵の宿をここから270マイルも離れたベニス・ビーチに予約していたからだ!
翌日の午前中、我々は日本へ向かう飛行機に乗らねばならない。

こうして我々の余りにも短いカリフォルニア・フィッシングは幕を閉じたのだった。

つづく。

【釣果】
2008年9月25日
8:00~12:00頃 LAKE SABRINA
4尾(ニジマス4)



【タックル】
ロッド:TAPER&SHAPE GAAS-66XULT
リール:05TWIN POWER 1000PGS
ライン:VARIVASスーパートラウト アドバンス 4lb



【ヒット・ルアー】
PURE5.0(赤金)、BUX5.1(PK)、シケイダー