スペック<思い入れ

そんなに物欲は強くない方だと思うのだが、航空券探しと楽器の検索は性というか業というか、とにかくついついしてしまう。

そう言えば読みたいと思った本も一切我慢せずに買ってしまうし、こう書くと節度の無い物欲マシーンのようだが、釣具やCDや服やワインやモルトウイスキーやセクシー系映像商品などはコストパフォーマンスや費用対効果などを熟考した末に厳選してから財布の紐を弛めているわけで、決して節操が無いわけではないのであります、本当です。

人生は短い上に一度きり。
本との出会い、未知の世界との出会い(もしくは再訪したい国との再開)、そして理想の音を奏でる見目麗しい楽器との出会いこそが、今の私が求める三大出会いなのだ。

ちなみに個人的なベース界三大名器とはプレべ、ジャズべ、スティングレイだが、プレべは今年出会った個体にゾッコンであり、スティングレイは3本所有していたうちの2本を売却し、残った男の1本と生涯付き合っていく所存である。
しかしねぇ。

状態の良い、値段もそこそこ手頃で、見た目も最高の、スペックも申し分無いジャズベースを見つけてしまったのである。
なんとなく弾く前から音が想像できる。
弾いたら確実に欲しくなる。

1本買うならば1本売るしかない。
これ以上ベースは増やしたくないし、先立つものもない。

私は最も付き合いの長いベースをじっと見た。
奇しくも同じカラーのジャズベース、若気の行ったり来たりで好きなバンドのステッカーをベタベタ貼ってある。
下取り価格を上げるため、私はドライヤーで加熱し、塗装を痛めないようにレモンオイルを浸した布で擦りながら丁寧にステッカーを剥がした。

しかし、もう手に入らない、大好きなバンドのステッカーがどうしても剥がせないのであった。

剥がせないステッカーの貼られた最も付き合いの長いベース。
つまりこれは手放してはいけないのである。

私はついでに金属パーツの簡易的なメンテナンスも施し、弦を交換し、気分を変えるためにピックガードも取り外してみた。

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悪くない。
まったくもって悪くない。

最近はスタジオに持ち込むことも全くなくなってしまったけれど、それでも長年の酷使で磨り減ったフレットは、ところどころ音がビビる場所がある。

スペック的には大した事がないのだけれど、高校時代に手に入れた猛烈廉価ベースしか所有していなかった20代の私が、それなりに覚悟を決めて購入したベースであり、当時その出音に感動したベースでもある。

次のスタジオにはこのベースを持ち込んでみよう。
原音重視で鳴らしてみよう。

納得する音が出たならば、フレットを交換しよう。

共に刻んだ年輪を大事にしなくてはならない。
それはバンドだって楽器だって同じなのである。