哀愁の勝山ドライブ

会社の同僚に振る舞う約束を果たすべく、私は日曜日の勝山港萬栄丸クロムツ船に予約を入れた。

日曜日の昼下がり、私は愛車を千葉に向けて走らせる。
強めの南西風に雨まで降り始め、果たして船は本当に出るのかとやや心配になったが、とりあえず行くだけ行ってみよう。

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港に何故かクロムツ船の姿がない。
嫌な予感を抱きつつ受付に行くと、なんとクラッチが壊れて出船中止となったとのこと。

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次回半額券なるものをお詫びの言葉と共に受け取り、しばしの間呆然とする。
私は見ているのである。今通って来た道の反対車線、即ち館山道上り線の凄まじい渋滞を!

思考停止に陥る私にひとつのアイデアが浮かんだ。
そうだ、このまま帰るなんて勿体無い。
竹岡ラーメンの名店、梅乃家に久々に行ってみよう。
日曜日も営業の同店、金谷での釣りの帰りに立ち寄って以来だ。

空いた下道をスイスイ走る。
予想外の不幸に見舞われたときには柔軟な発想で窮地をチャンスに変えることが知性である。
ふふふ、転んでも只では起きないぜ!

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ビーン!思わず死語的な効果音が脳内を去来した。
梅乃家、やってねえ。

確かもう一軒、この道の先に鈴屋という竹岡ラーメンの老舗があったはずだ!
しかし代替案的に目指した鈴屋の暖簾は既に仕舞われていたのであった。

私は絶望感に支配されつつ下道を北上、富津中央ICから館山道に乗った。
暫くはスイスイ走っていたが、木更津ジャンクションから激しい渋滞に見舞われてしまったのだ。
どうやらこのまま海ほたるまでの10数キロ連なっているらしい。

私は次のICで高速を降り、とりあえずアクアライン入口の木更津金田まで下道で行くことにした。
この目論見は当たったように思えた。
渋滞する高速を見やりながらスイスイと下道を走る感覚は胸のすく思いだ。

しかし結果的にはこの選択は完全なる失敗であった。
木更津金田ICの数キロ手前から渋滞という生易しい言葉では形容することが出来ない、カトマンズのタメル地区のカオスを思い起こさせるような凄まじい交通麻痺に巻き込まれてしまったのだ。

全く動かない。赤信号が青になっても全く進まず、また赤になる。
無意味な信号の明滅をただ眺めるだけ、ここは地獄である。

昨日はアタリはすらなく真鯛ボウズ、今日は船にすら乗れずクロムツを手に出来ず、竹岡ラーメンは食べられず、木更津の訳の分からない糞道路で交通麻痺に巻き込まれている。
見上げると高速道路の車は遅々とした速度ながらも確実に前進している。
一方で私は地獄に抑留されている。

最早呪詛の言葉を発する元気もない。
すると唐突に車のブレーキの異常を知らせるシグナルが警報音と共に点灯した。

もう私は生きて家に帰る事が出来ないかもしれない。
木更津の地獄が私の死に場所なのだ。

走馬灯が回り始めた。

車は全く動かない。

最早私は何も感じない。

お別れの時が近付いている。

命あらばまた他日。