梅宮、松方、もちすぎ君…8/10庄三郎丸

人生とは「一寸先は闇」である。
 
これは自分の人生観を吐露した訳ではなく、厳然とした事実である。
 
死なない限り明日も来週も来月も来年も続く自分の人生と、今生きているこの瞬間の刹那的自分をバランスよく折り合いをつけて生きること。
 
2013年は精神的にターニング・ポイントともいうべき年となったようだ。
 
出来るうちに、やりたいことを。
 
決して未来に絶望しているのでも自暴自棄になっているのでもないが、明日死ぬかもしれないという思いがとにかく頭から離れない。
 
「楽しそうですね」とか「人生満喫してますね」と最近よく言われるし、実際楽しいことが多い毎日だ。
しかしその享楽的な日常を支えているのは、ある種のペシミズムだったりする。
 
だから俺はマグロを狙うことにしたのだ。
 
 
前回のデビュー戦では7ftのCORAL STARでジグをしゃくっていたのだが流石に長いし重いしで軽快さを欠いたため、翌週すぐにAbuの安いヒラマサ用ジギング・ロッドを購入。
ジグ・ウェイトは210gまで、適合PEは4号まで、MAXドラグはスペックに書いていないけど、これなら20kgクラスのキハダには十分耐えられそうである。
更にベイトタックルで使っていたリール、OCEAカルカッタ301では10kgクラスのキメジが掛かっても結構不安なドラグ性能だったので、PE4号を巻いていたSALTIGA-Z30Lを3号300mに巻き替えた。
ついでに絶望的にトランクが小さな我が愛車に積める最大サイズのクーラー、SHIMANO SPAZAの35リットルまでも購入。
 
準備は万端である。
 
この日もマグロ/カツオ船は3隻出し。しかし客足は解禁直後の先週と比べると少な目で、俺はまだミヨシのジギング釣座に先行者の居なかった23号船の右舷ミヨシを確保。
 
さてどんな釣りになることやら。
 
相変わらず相模湾では随所にカツオ・ナブラが。
しかしどのナブラの周りにもイワシのウロコが無く、ベイトは完全にシラスのみになっているようでジギングは苦戦しそう…。
 
案の定というべきか、悪い予感は当たるというべきか、やはり反応に当ててもエサ釣りは順調に釣れるのにメタル・ジグは見向きもされない。
手持ちのジグで最もシルエットの小さいTG BAITの45gを使っているのにも関わらず、だ。
前回はこのジグで3回当たって2発ヒットしたというのに…。
 
次回は30gの更に小さなジグが必須のようだ。
 
見えてる魚に無視される切なさ、どうもこのままカツオを狙っていても埒があかなそうなのでスロジギ用のジグを使って指示ダナより20m下からしゃくり上げるキメジ/キハダ狙いに変更。
 
しかしそれでも魚からのコンタクトはまるで無し。
 
タイラバ好きな俺は、釣れない釣りには慣れっことはいえ、エサ釣り師達が活況を呈しているのを横目に見ながらジグをしゃくるのはかなり切ない。
 
13時30分の沖揚がりが気になりだした12時過ぎ、一発逆転狙いでここまで封印していたエビング一本槍で勝負することに。嗚呼、気合を入れてジギング・タックルを揃えたのでなんでもいいから1本獲りたかったのだが、背に腹はかえられないってヤツだ。
 
エビングって冷静に考えてみたらエサ釣り師の方々が撒いて下さったオキアミコマセに寄ってきた魚をワームで掠め取るセコイ釣方なのでは?という疑念も浮かび、この釣りに対して正直若干微妙な心持なのだが、まあマグロ狙うのにセコイなんて言ってられない。
 
何も起きないまま沖揚がり時刻が迫ってきたのだが、予感めいたものがあった。
エサ釣り師のハリスが2人立て続けに瞬殺され、キハダの気配が濃厚。
マグロがオキアミを食べまくっている。これはワームに食いついても不思議がない状況じゃないか。
 
来る!
きっと来る!!
 
40mの指示ダナに対し50m前後まで仕掛けを落とし1mづつしゃくり2~3秒待つ。
5回目のしゃくり、すなわち仕掛けは45mぐらいか?
ステイした竿先が小さく2回ノック、そしてスーッと下に入ったのを見て強烈なアワセを3発入れると
 
“ズドン!”
 
「喰ったあああああああああ!!!」
 
やばいやばいやばい!
釣りに来ているのに変な言い方だが、本当にマグロが食っちまったよ!
 
噂に違わぬ強烈なファーストラン。
為す術なく竿を両手で握りしめて耐えることしか出来ない。
 
30m、40m、嗚呼、ドンドン糸が出されていく。
やっと魚が止まったのは60mぐらい走った後だったろうか?
ドラグをやや締め巻き取り開始!
ちょっとずつ巻けるのでこれは獲れる!と思ったのだが、ここからが地獄の始まりだった。
 
巻いた分またジリジリと糸が出ていく。
推定水深100m地点。マグロも重いが、水圧も相当なもので早くも腕が悲鳴を上げ始めた。
 
そして悪夢のセカンドラン!
なんと糸がトータルで200m以上も出てしまって、もう何m出ているのかわからない状態に陥ってしまった。
 
今にして思えばドラグの締め具合がこの時点で圧倒的に不足していたのだ、思考停止状態に陥っていた俺は冷静な判断力を欠いていたようだ。
 
船長からも檄が飛ぶ!竿の角度が良くない、竿の持ち方が良くない!マイクでアナウンスされさながら公開処刑のよう。
しかしさすがのマグロも弱ってきたようで、徐々に巻き取り優勢になってきた!
ただマグロも弱っていたようだが俺も一緒に弱ってしまったようで、なかなか思うように負けない。
 
「お客さん、もっと巻かなきゃ永遠に上がって来ないぞー!」と船長。
分かってる、そんなこと分かっちゃいるけど巻けないもんは巻けないんだよー!
 
「サメが来た!」
船の周りをマグロを待ち伏せするかのようにサメが回遊しているようだ。
マグロとの闘い、己との闘いに加え、サメとの闘いまでも!
もう心は完全に折れそう。
 
何分経過したのか全く分からない。
上げる自信は既に全くない。
しかし巻き続けていればいつかは終わりを迎えるのだ。
 
すると唐突に水面に錘代わりのメタルジグが見えてきた!ってことはこの下には天秤に結んだハリス3mがあるだけ!
「船長!もう上がる!」
と声を出した途端
“ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!”
「じぇじぇじぇ!」
 
恐らく近寄って来たサメから逃れるべくマグロが最後の力を振り絞って全力で潜ったのだろう、あと3mまで迫ったのに余裕で糸が50m以上も出されてしまった(泣)!
 
絶望的な気分に支配される。
 
するとランディングの為に操舵室から既に出てきていた船長、
「このタイミングでそんなに糸が出るならドラグがまだ緩すぎるよ!」と一言。
うううっ、もう体力はEmptyサインを通り超えてとっくにガス欠、一か八かでドラグを思い切り締め最後の力を振り絞ってゴリゴリ巻く。もうマグロなんてコリゴリだ、早く平和な我が家に帰って良く冷えたビールが飲みたい!
俺は汗と涙と鼻水でグチャグチャになりながら、永遠とも思われる長い時間の中でただひたすらにリールのハンドルを巻き続けたのだった。
 
 
 
 
 
 
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【釣果】
6時出船、13時50分沖揚がり
キハダマグロ 1本(22㎏)
 
【タックル】
<カツオ・ジギング>
ロッド:TENRYU OCEANIA 581B-4
リール:DAIWA SALTIGA-Z30L
ライン:PE3
号、リーダー:フロロ40lb

<キメジ・ジギング>
ロッド:Abu Garcia SALTY STAGE KR-X SJS-57/210
リール:SHIMANO TWIN POWER SW8000HG
ライン:PE4号、リーダー:フロロ60lb
 
<エビング>
ロッド:TENRYU SPIKE TUNA SK812TN-H
リール:DAIWA キャタリナ6500H
ライン:PE6号、リーダー:ナイロン100lb
 
【本日の総括】
最後の最後にサメに襲われ、するとマグロは殆ど抵抗しなくなりあっさりと上がってきた。
ご覧のとおりお腹の部分をガッツリと齧られてしまったけど、この程度で済んでラッキーだったというべきであろう。
 
重量は22kgジャスト。
完全体なら25kgはあったかな?
 
危なっかしかったのは俺のファイトだけではなく、釣ったマグロをよく見ると針は完全に口の中に入っていた。
アワセを3発入れたので丸呑みされた針が口の外ギリギリまで出てきてフッキングしたのだと思われるが、鋭い歯でハリスが切れなかったのは幸運と言えるだろう。
 
獲れて本当に良かったけど、いくつかの課題が浮き彫りになった。
 
まずはリールとの対話不足。
ドラグは初期3㎏ほどかけていた。これは出船前にドラグチェッカーで確認したので間違いのないところだ。
しかし、ドラグノブをどれだけ回せばドラグがどれぐらい締まるのかについて、全く検証していなかった。
リールの性能はMAXドラグ30㎏、ロッドの限界はMAXドラグ15㎏。
ファーストランが止まったあと、更にはサメの危険が増すラスト30m、3kgから7kg、7kgから10kgと段階的にドラグを締めていけばもっとスムーズなファイトになったはずだ。
 
更にはロッドの能力を活かす知識の無さ。
ロッドの持ち方と構え方、そしてファイト中にキープすべき角度やポンピングのやり方など、あらゆることが船長にダメ出しされた。
 
リールのドラグ設定もさることながら、ロッドの能力を十分に活かすファイトが出来なかったことも自分の体力を消耗させた一因であろう。
何しろ50kgクラスを獲る為の充分過ぎる強度をもったこのロッドで25kg程度の獲物に主導権を握られるはずがないのだ!
 
正確には覚えていないが、魚がヒットしたのが13時20分頃のはず。
釣り上げて船長とがっちり握手(俺の握力は既に失われており、握手というよりは手を握られただけだったがw…)して一息ついて時計を見たら13時50分。
どうやら20分を大きく超え、30分近いロング・ファイトとなったようだ。
50kgクラスならいざ知らず、相模湾アベレージ・サイズでこれはマズイな。
 
次は15分で獲ってやる!
闘志は漲っている。
 
 
 
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 豪快にカマの丸焼きを作りたかったのだが家庭用の調理器具では無理だと帰宅してから判明www!
ホホ肉ステーキでお茶を濁した。
 
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マグロ釣りにおけるリーダー結束は一般にSFノットやPRノットが推奨されているけど、船上で素早く組み直さなければならない状況もザラにあるだろうから俺は器具を使わないFGノット至上主義。
今までの経験から抜けない自信はあったけど、とはいえマグロとのファイトは未経験だったから若干の不安があったのもまた事実。しかしながらマグロとのロングファイトに耐えるどころか編み目が全く乱れてすらいなかった我が愛しきFGノットに更なる自信を深めたのは最大の収穫かな?
 
 
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釣って数日間は火を通しても酸味がやや舌に残るイマイチな食味だったけど、刺身は4日目あたりから格段に旨くなってきた。
それでも冷凍モノの黒マグロには及ばないけれど、スーパーで買ってくるマグロ三種盛りには全く負けていませんな。
 
釣った喜びよりも、取り返しのつかないことをしてしまった感が強かったのが正直な感想だが、日が経つにつれまた釣りたくなってきた。
サイズアップとスマートなやり取りを目標にまた挑むとしよう。