和式地獄…2/10平塚「庄治郎丸」

金曜日、会社の先輩と珍しく真面目なテーマでサシ飲みしていたら帰宅が遅くなり、ある意味当然の結果として翌朝は寝坊してしまった。
 
5時20分。
通常であればもう家を出ている時刻である。
 
寝惚けた頭をフル回転。
 
そうだ、確かに俺はアマダイの準備は抜かりなく整えているのだ。
 
「ピコーン!」
 
鼻を掻きながら考えていたら、小さなバイキングのビッケよろしく名案が浮かんだのであった。
 
そう、常宿である庄三郎丸の隣の庄治郎丸もLTアマダイ出している上に、出船は7:30と庄三郎より30分遅い!ここなら間に合うんじゃないか!?
 
俺はシャワーも浴びず糞もせず、ひげを剃って歯を磨いてそそくさと着替えると、大急ぎで家を飛び出し平塚へと向かった。
 
6:50平塚新港到着。
庄治郎丸の前では、webで有名な波平専務が待ち構えており、飛び込みなのだがアマダイ船に乗れるかと尋ねると、「バッカモーン、まだ余裕だ!」とありがたい返答。
 
とりあえず荷物とウエアを宿の前に降ろし、車を駐車場へ。
 
そして船に案内してもらう前に船宿のトイレに行く。
朝飯は船でも食えるが、着るものもとりあえず大急ぎで出発した俺は、船に乗る前にせめて大便だけでも排出しておく必要がある。
 
なにしろ前夜の深酒のせいで腸がグルグルと鳴っているし、自宅でトイレに行く間も惜しんで出てきてしまった俺は船に乗る前にスッキリしておく必要があるのだ。
 
「…。」
 
庄治郎丸のトイレ、二つとも和式です。
 
Ohhhh,My GOD!!!!!!!!!!!!
 
排便に関しては人並み外れてナーバスな価値観を持つ俺、限界に達しない限り和式では用をたせないよ!!!
 
もうこうなりゃ船上で海中脱糞しかない!
 
俺は決意を固めて第5庄治郎丸に乗り込んだ。
 
宿を出て新港に着いたのが7時5分ぐらいであろうか?
なんと恐ろしいことに7時に河岸払いするはずの「ヤクザ・ザ・セブンティーン」ことやくざ船長操船の第17庄三郎丸がまだ港にいるではないか!!!(*後日談→ヤクザ船長は12号の誤り)
 
 まさか俺を捕まえる為に待っていたのではあるまいな…?
 
俺はヤクザ船長と杯など交わしてはいないが相手はヤクザ、俺の常識とは違うベクトルで生きている博徒なのである。
 
妄想が広がる。
 
ヤ「お客人、乗る船をお間違えでは?」
俺「いや~、今日は寝坊しちゃって出船が遅いこっちにしたんすよ。」
ヤ「お客人は当方でLTアマダイを覚えなすったのにも関わらず、お隣の船に抵抗なくお乗りになるのですか。」
俺「や、あはは、また来週にでも来ますよ。」
ヤ「いくらお客人といえども、義を欠いた鬼畜の所業は見過ごす訳には参りませんな。」
俺「え~?オーバーだなぁ。また来ますって。」
ヤ「命をもらうとまでは申しませんが、さしあたって小指を頂戴致します。失礼。」
“ザクッ!”
俺「うぎゃああああああああ!」
 
ああ、恐ろしい。
 
俺はヤクザ船長と目が合わないように細心の注意を払いながら、第5庄治郎丸に乗り込んだ。
 
ところでこの日は大潮だったのにも関わらず終日潮流れが無くて大苦戦。
 
東京湾と違い相模湾の潮流れは沖に出てみないとわからない。
 
最初のポイントは大磯沖50mダチ。
 
ここで俺は幸先よく、船中第一号の27cmぐらいのアマダイをゲット。
 
さあ、後は脱糞のタイミングを見極めるだけであるが、船長は同じポイントを1時間以上流しっぱなしなのであった。
 
ところで遊漁船上での脱糞は実は非常に難しい。
 
誰もが出来ればそんな場所で用など足したくないから極限まで我慢するのだが、船が止まっている時に我慢の限界を迎えて大便を放出してしまうと、同船の皆様に自分の排泄物と排泄口をクリーンアップした紙をお見せしてしまうという大失態を演じることとなるのだ。
 
タイミングと我慢の限界との匙加減。
 
これこそが船上脱糞の極意なのである。
 
「はい、あげて~。移動します。」
 
船長がこの日初めての移動を告げたのは午前9時、実に1時間半以上流しっぱなしだったのである。
 
とりあえず助かった。
ライフジャケットを外し、俺は船尾のトイレへと急いだ。
 
そしてドアを開けると…
 
「!!!」
 
OH、NO!
船のトイレも和式じゃないかよ!!!
 
俺は力なくトイレのドアを閉めると、力なく自分の釣座へと戻り、力なくオキアミの尾羽をハサミで切り、力なく釣りを再開した。
 
こんな大型船で和式便所ってなんなんだよ!?
 
もうこうなったら我慢の限界まで脱糞を我慢してやる。
今日は魚との勝負ではない!自分自身との戦いだ!
 
【釣果】
7時10出船、14時25分沖揚がり
アマダイ4尾(外道:アカボラ、ガンゾウビラメ、トラギス)
 
【タックル】
ロッド:alpha tackle AIRBORN STICK30T-200
リール:SHIMANO SCORPION XT 1501-7
ライン:PE1号、オモリ:40号
 
【本日の総括】
15人で20cm~39cmの0~5尾。
船中最大の39cmの他にも35㎝を含めて4尾釣れれば充分な釣果なのだが、この日俺は魚ではなく、自分自身と闘っていたのだった…。
 
とりあえず便意とは胃結腸反射によってもたらされる部分が多いので、船上でも少量ずつゆっくり食べてなんとか発作はかわした。
 
沖揚がり後に宿に戻ってもトイレは和式。
とりあえず急いで道具を片付け港を後にする。
 
最初のトイレ休憩ポイントは湘南大橋手前のファミレスだがまだ暫くは耐えられそうだと判断、そのまま一気に自宅に帰ろうと思って車を飛ばす。しかし新湘南バイパスを降りて国道1号を暫く進んだところから激しい渋滞に見舞われてしまった。
 
国道1号の渋滞の最大の問題点は、渋滞にはまってからは抜け道らしい抜け道は見当たらないし、休憩できるような店も殆どないということである。
 
断続的に襲い来る便意を脂汗を流しながら耐えていると、理不尽な世界に対する怒りに自分自身が支配されてくるのを感じる。
世界は洋式便所で溢れているというのに、何故こんなにも和式地獄に苛まれなくてはならないのか?
 
動かない車、店の無い国道1号、断続的に襲い来る排便発作。
 
俺は車内で奇声を上げ、ステアリングをガンガン叩きながら耐えた。
 
気を紛らわそうと危機的状況をTwitterで呟く(のが余裕なほど車は動かない)と、少なからずフォロワーさんが「頑張れ!」「負けるな!」と応援リプライを返してくれた。
嗚呼、俺は独りじゃない!
 
危機的状況に陥った後に最初に見えてきたのはすき家だった。
ダメだ、牛丼屋は排便に向かないシチュエーションだ!オーダーしたらすぐに料理が提供されるから、排便の時間などないではないか!
 
ここを泣く泣くスルー。
 
すると次に見えてきたのはCOCO壱だった。
 
カレー屋で排便?
ダメだ、そんなの子供のラディカリズム(ウンコ味のカレーとカレー味のウンコ、どっちがいいんだよ~?)そのものじゃないか!
 
ここも涙のスルー。
 
もう開き直ったよ、俺は。
 
俺が愛する会社の後輩(仮にサマー)は、齢39であった昨年酔っぱらってウンコを我慢しながら家に帰っていた時に、なんとか最寄駅に辿り着き苦しみながら15糞歩いてようやく自宅マンションに辿り着いた時に、安堵感から肛門括約筋が緩みエレベーターホールで派手に大便を漏らしてしまったという。
 
LET IT BE.
 
漏れたいなら漏れればいいのさ、糞なんて!
 
我々人類は糞を漏らしながら産まれてきて、そしてやがて糞を漏らしながら死んでく。
 
誰もが生まれながらに哀しくて、寂しくこの世を去る運命なのだ。
 
そんな境地に達した時に事故車両とパトカーと交通整理する警官の姿が見えてきた。
 
どうやらこの渋滞の原因は交通事故だったらしい。
 
そして事故現場を抜けると車はスイスイ、一気に自宅まで駆け抜けた!
 
後輩(仮にサマー)の失敗談から、俺は自宅マンション敷地内に車を滑り込ませると駐車場ではなくマンションエントランスに車を横付けし、自宅トイレへと直行したのだった。
 
 
長い一日だった。
 
本記事に只の1枚も写真がないのは俺に写真などという生温いものを撮影する余裕が一切無かったからである。
 
その代わり、俺はさらなる人間的な深みを獲得したことは疑いようがない。
 
そして平塚でアマダイを釣る時は、やはり庄三郎丸にしようと固く心に誓ったのであった。
決してヤクザ船長が怖いからという理由ではなく、俺が怖いのは和式便所なのである。