訳あって・・・らーめん大 高円寺店

飲み過ぎてしまうことは多々あるが、前後不覚になるまで酔うことは稀であった。

ところが最近加齢によるものなのか、「寝落ち」という現象にしばしば見舞われる。

ソファーで寝る、食卓で寝るなんて当たり前、酷いときはトイレで寝る、玄関で寝る、果てはベランダで寝落ちするという失態まで。

何故だか理由はわからないが、特に寝落ちを誘発しやすい酒はワインであり、最近ではその性質を逆手に取り、釣り前夜はワインを必ず1本空ける。
すると10時だろうが11時だろうが直ぐに眠りに落ち、そして目覚めた時にはアルコールはほぼ完璧に抜けている。

料理にも合うし、折からの円高の恩恵でAOC ボルドーだって1000円以下で買えてしまう。

ワイン、最高。


その日もワインを飲んでいた。
7月から役所の愚かな規制により食べることが叶わなくなる牛レバ刺しに別れを告げる為、お気に入りの焼肉屋へ行った夜のことだ。
しかし店側の自主規制により、既に全ての生肉料理がメニューから消えていた。
それが哀しくて少しピッチが早かったのかもしれない。

しかしそれほどの量を飲んだ訳でもないし、帰りの電車に乗り込んだのは23時頃。
優良である。

何物かが俺の肩に触れた。
それは半永久的に円運動を繰り返すかに思われた山手線が、その役目を終えて車庫に入る前に最後に停車した品川駅でのことで、俺の肩に触れたのは俺を社内から追い出す為に乗り込んできた駅員であった。

時刻はなんと午前1時。察するに俺は席についた途端に眠りに落ち、あげくの果てに熟睡したまま山手線を2周してしまったようだ。

しかも気が付くと何故か右手に銀行のキャッシュカードを握り締めている。
不審に思って財布を探すと・・・・・・
「ない!」
今自分がおかれている状況が瞬時には飲み込めなかった。

とりあえず駅員に促され駅の遺失物係へ行き状況を説明、更に駅員の勧めで駅前の交番に行って遺失物届けを行い、受理番号を貰った。

既に酔いはすっかり覚めており、そのクリアさが余計に不審に思われたのか、「本当にそんなに酔ってたの?」と警官に何度も聞かれた。
自分自身でも狐につままれたような気分だ。
まるでナルコレプシー認知症を疑似体験してしまったような気がする。

とりあえず握り締めていたキャッシュカードを使って現金を引き出し、タクシーで帰った。
そして家に着くと頭を整理する為に缶ビールを開けた。

しかしどれだけ記憶を辿っても、山手線に乗り込んでから降りるまでの間の記憶の一切がないのであった。

今すぐ為すべきは銀行のキャッシュカードとクレジットカードを止めることだが、メインバンクのカードは手元にあるし、警察の遺失物届けを済ませているから仮にクレジットカードを使われても保険で対応できるだろう。

全てが面倒になったので、歯を磨いて寝た。
今度は寝落ちではなく、きちんとベッドで正しい睡眠を貪るのだ。

目が覚めて、とりあえず作戦を練る。
会社は半休にすべきだろう。
あらゆるカード類を速やかに止めなくてはいけない。

すると突然携帯電話が鳴った。まるで見覚えの無い電話番号が表示されている。
もしかして財布が見つかったのだろうか?

期待しつつ電話に出ると、かけてきた相手は高円寺駅の駅員であった。
高円寺?
俺の財布が高円寺駅に届いているという。
何故だ?

更に混乱は深まったが、急いで支度をして高円寺に向かった。
昔友人が住んでいたので20年以上前にはよく通ったが、今の俺には縁も所縁も無い街である。

高円寺駅では研修中と書かれたバッジを胸につけた若い女性社員がマニュアルを見ながら応対してくれた。
恐らく新入社員であろう。

フレッシュな彼女と、余りにみすぼらしい理由でここに居る俺とのコントラストが哀しかった。
とりあえず財布は無事に帰ってきた。
驚いた事に中身も全て無事であった。
色々問題はあるけれど、落とした財布が無事に持ち主のところに戻ってくる程度には日本という国は素晴らしい。
そうだ。
「ところでこの財布は何処で見つかったのですか?」
新入社員の女の子に最大の疑問を投げ掛けてみる。
すると返ってきた答えは俺を驚愕させるに余りあるものであった。
埼京線の車内です。」
埼京線
もしや俺が患っている病は夢遊病ってヤツなのか?

財布が戻ってきた安堵感と、自分で自分のことが分からなくなった恐怖。

そうだ、こういう時はとりあえずゴハンを食べよう。

俺はその昔高円寺でよく食べたザボンラーメンに向かったが、ザボンラーメンの隣には知らぬまにらーめん大が出来ていた。

はい、前置きが長くなりましたが、本記事はこのラーメンについて書くことを目的として書き始めたのだ。

オーダーは小らーめん、魚粉。コールは野菜、アブラ、ニンニク少し。
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堀切系特有のゴワゴワした縮れ麺は結構好み。しかしスープが妙に酸っぱく感じる。
大のスープってこんなんだったっけ?

しかし自分の記憶に対して全く自信が持てなくなっていた俺は、そんな疑問に対する答えなど見つけられようもなく、弱々しく麺をすすり、野菜を平らげてからトボトボと会社へ向かった。

俺は正気を失いつつあるのかもしれない。