アキレス最後の戦い・・・10/30野毛屋

外道すら釣れない丸ボウズに終わってしまった金曜日の野毛屋エビタイ最終決戦。

翌土曜日は暗い気持ちで休日出勤をこなした。

恐らくこの日の私の態度からはヤル気というものが窺えず逆に義務感が丸出し、おまけに発言内容はシニカルで厭世的であったかもしれない。

敗北を受け入れる為の訓練としてタイラバは有用なはずであるが、私はまだまだ(キャプテン勇治に比べ)年若く、経験も少なく、人として/鯛釣り師として円熟の境地に達するには遠く及ばないのである。

不惑”という言葉があるが、生憎と私は孔子ではない。
不惑を二つ過ぎても今なお惑い、迷走を続ける。それが私という人間であり、私の限界なのだ。
しかし、いくら釣れなかろうとも“鯛釣りを止めない”ということについては迷いはない。
部分的な不惑の獲得と言っても差し支えないだろう。それでいいのだ。

ちなみに“五十にして天命を知った”孔子であるが、私は既に天命というものを知っている。
己の限界に先に気付いた者が、聖人君子より先に何かを学べることもあるのだ。

しかし、船釣りを嗜む人間の多くは、年齢に係わりなく天命を知っているものと思われる。

即ち“天命を既に知っている”ことは私の徳の高さとか美点という訳でなく、“釣り”というものの懐の深さを示す証左に他ならないのだ。


さて、もしかしたら休日出勤が入るかもしれないと思い予定を入れずにおいた日曜日がポッカリと空いた。
2日前、即ち“金曜日の決戦”((C)DREAMS COME TRUE)の傷を癒すべく、太田屋の午前タチウオ/午後スミイカのリレー船に乗って美味しいおかずを狩りに行こう!と思い立った。

様々なターゲットがあり、様々な難易度があり、無数の選択肢があるのが釣りの優れた点の一つである。私のような初心者に毛が生えた程度の青きアングラー(そう、加齢臭が気になり始めた年齢であっても、沖の世界では若輩者なのである)にさえ多くの門戸が開かれているのだ。
選択肢が多いほど人生は豊かであることは間違いない。
そして海で受けた傷は海で癒すしかないのである。

浅草釣具でロストしたきり補充出来ないでいたお気に入りジグを見つけて買い溜めもしておいたし、シーズン開始以前よりスミイカ用の2.5号のエギも折に触れ買い足していたので準備は万端である。

心弾ませながらタチウオとスミイカの準備をしていると、
「お前は本当にそれでいいのか?」
という天の声が聞こえてきた。
「?」
どことなく聞き覚えのあるその声に耳を澄ませてみれば、それは天の声でもキャプテン勇治の声でもなく、私自身の心の声であった。
『やめてくれよ、俺はタチウオとスミイカのリレー船に乗るんだ!美味しいおかずをゲットして金曜日の傷を癒すのだ!』

しかし自分自身の心の声が「本当にいいの?本当にいいの?本当にそれでいいの?」と絶え間なく問い続けて来る。
自己との対話は大事なことだが(これを怠ると知らぬ間に自分をすり減らしかねない)、自己矛盾を抱えている時には辛い作業でもある。
何しろ自分自身から逃れる方法は死ぬか狂うかしかないのだ。

…。

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結局のところ、気が付けば、否、やはりというべきか、日曜日の午前7時に俺は第七太田丸ではなく、第二忠丸の戦場にいた。
最後の秋鯛を狩るべく、アキレス最後の戦い((C)LED ZEPPELIN)に挑む為に…。
いや、挑むというよりも、己の深層心理によって“挑まされていた”という感覚の方がしっくりくる。

中1日という鉄腕稲尾並みのハイペースでマウンドに向かう諦めの悪い私を、忠雄社長も勇治船長も中乗りエストシ君(仮名)も皆笑顔で迎えてくれた。

…それで充分だった。


【釣果】
7時15分出船、16時20分沖揚がり
ホウボウ1尾

【タックル】
ロッド:ZENITH零式 LIGHT G-TOP L 
リール:DAIWA RYOGA BAY JIGGING C1012PE-HWL
ライン:PE1号、ハリス:フロロ5号

ロッド:Tailwalk Snatch S70MH
リール:SHIMANO TWIN POWER MgC3000
ライン:PE1号、リーダー:フロロ4号


【本日の総括】
小型中心だったが真鯛の活性が高く、10回以上アタリがあった。
アタリの数だけは今期最高である。

しかし1枚も釣り上げることは出来なかった。

つり丸誌の記事で見た“遊動式タイラバ”も通販で買い求め、潮が緩んだ時はキャスティング・タックルを使って幅広いポイントを探ってみた。
キャスティングでもアタリは1回あったのだが、フッキングはしなかった。

キャプテン勇治も4時20分まで粘ったし、己の持てる技術と集中力の全てを稼動して真鯛に挑み続けた。

それでもただの1枚も釣れなかった。

最も惜しかったのは真鯛が食い上げてきた時にラバージグのネクタイが根元から外れてしまったこと。
とにかくツキにも見放されていた。

悔しくないと言えば嘘になる。
しかし全力を尽くして清々しい心持ちで戦いを終えたこともまた事実なのである。

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朝一で中乗りエストシ君(仮名)が釣り上げた塩焼きサイズの小さな真鯛をお土産に貰った。

こういう気持ちは有難く頂戴するべきであり、頂いた獲物は美味しく頂くべきであり、実際にそうした。


これにて2011エビタイ挑戦は終了した。
名残り惜しくはあるが、野毛屋第二忠丸はいよいよアオリイカの季節を迎える。
この船でのこの釣りとの出会いが私を船釣りの世界に急速にのめりこませた思い入れの深い種目であり、それはそれで非常に楽しみなのである。

結局のところ真鯛の季節が去っても私の野毛屋参詣は休む事無く続くのである。

この点に関しては、私も“不惑”という概念を獲得していると断言出来るのだ。