運と縁・・・本郷三丁目「もつ焼きじんちゃん」

人と人は根本的に解り合うことは出来ないし、努力は基本的に報われない。
という基本姿勢で生きている。

そんな俺は勿論オプティミストでは有り得ないが、かと言ってペシミストだとも思っていない。
単にリアリストなのだ。(夢見がちな一面もあるんですけどね、エヘヘッ(*^.^*)ゞ)

しかし運と縁の存在は信じているし、運と縁を掴んだり生かしたりする為には(仮に報われない事が多いとしても)それなりの努力も必要なのだと思う。

例えば好きな作家に絲山秋子という人が居る。

いつだったかは覚えていないが、とある出張の際に読むべき本を忘れてしまい(“出張”と“旅行”は本を読むに適した機会だ)、新幹線に乗る前に仕方なしに飛び込んだ書店で目についたのが絲山秋子の「沖で待つ」という文庫本だった。


数年前から“沖釣り”を趣味にしている俺、この数日前に数少ない釣り友達から「仕事が立て込んでしまって予定していた釣りに行けなくなった。」というメールが来て、「海も魚も消えないし、行ける時に一緒に行けばいい。沖で待っている。」という内容の返信をしたのであった。
そんなやり取りをした直後に目にしたこの本のタイトルに運命的な出会いを感じ、知らない作家だったけど迷うことなく購入して新大阪行きの新幹線で早速読みはじめた。

名古屋の手前で余裕で読み終えてしまうその短編小説の内容は予想に反して海とは無縁のものだったが、突拍子もない設定なのに説得力と共鳴力が凄まじくて、行き場のない読後感に至るまで深い感銘を受けた。表題作以外の作品もとても良かった。

それでこの作家の他の作品も読んでみたくなり、手当たり次第に読み散らかしてみて更に驚いたのは自分にとって縁もゆかりもありまくる数々の場所が舞台となっていたり出てきたり、シンクロニシティのような事象や現象があったり起こったり、そして何より自分自身ですら意識的には辿り着くことの出来ない自分の心の奥底の感受性を的確に刺激する“絲山作品”の不思議な力に驚いたのだった。

暗闇を相手に勝ち目の薄い闘いを続けていた日々には何かに縋るように彼女の本を貪り読んだ。

今では自分にとって大事な作家の一人と言っても良いかもしれない。

この事例では飛び込んだ書店に“沖で待つ”があった事が運で、他の作品を読んだ事が努力で、それらの作品世界が自分にとってあまりにも特別であった事が縁である。

さらに遡ってみれば、沖釣りを始めたきっかけは3年程前に20も歳の離れた会社の大先輩に誘われたカワハギ釣り。
当時ルアー・フィッシングに強いこだわりを持っていた俺は船釣りに全く興味が無かったのだが、その少し前に会社の後輩に連れて行かれた海鮮居酒屋で頼んだカワハギ活造りが7000円もし(た上に払わされ)て驚愕した記憶が生々しく残っており、そんな魚が釣れるもんなら釣ってみたいと思ったのだった。

そしてその後同じ大先輩から船アオリ釣りに誘われて金沢八景のとある船宿と運命的な出会いを果たした。
これをきっかけとして俺の沖釣りライフは飛躍的(乃至は泥沼的)に深まっていくこととなったのだ。

この一連のエピソードの中にも多数の運と縁、そして少しばかりの努力が含まれている。

風が吹けば桶屋が儲かる”的に運と縁を上手く捕まえ、多少の“努力”いう名の風を吹かせてみれば、人生は思わぬ方向に上手く転がっていくこともある。

さて前置きが長過ぎた。

もつ焼きに関する記事であった。

なんてったって俺はもつ焼きに目が無い。

取引先がある為に定期的に訪問している本郷で気になるもつ焼きを発見した。
その名は「もつ焼きじんちゃん」。
カウンターだけの小じんまりした店内に恐面の店主、メニューはカウンター内に掲げられた木札、どことなく東十条さいたま屋と赤羽米山と祐天寺忠弥などの名店と相通じる雰囲気、これは経験的に言って名店の予感がアリアリだ。

まずは瓶ビールをオーダーすると
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なんと赤星が出て来た!
もうこの時点で『御主、やるな。』って感じだ。
そしてレバ刺しを見てビックリ、串焼きと共用のようで串に刺された状態で出てくる米山スタイルなのだが、今まで見たことが無いほどにエッジのたった切断面は余程鮮度が良い証拠であろう。食べてみると案の定、
ウマーーーー!

刺身で一番痺れたのはアブラ。こんな部位が刺身で食えるなんて!
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甘味、食感、コク、とにかく最高だ!

焼き物はタレとか塩とか客が指定するのではなく、部位によって店主が最適と思う味付けで提供してくれるさいたま屋スタイル。
刺身が旨い店の焼き物がまずかろうはずがない。
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つくねは米山インスパイア系のナンコツ入り甘口。旨い!

隣の巨漢が引っ切り無しにタバコを吸うことに辟易してこの日はサクッとお会計。
値段忘れちゃったけどリーズナブルだった印象が強い。


いや~、しかし良い店だったな。

再訪への意欲が高まり、仕事が暇だったこともあって3日と空けずに再訪してしまった。

そして瓶ビール飲んで一息ついてtwitterで「赤星なう。」なんて呟いてたら、アレ?
twitterで相互フォローしていて且つ拙ブログとも相互リンクして頂いてる“つり丸”ライターにしてエキスパートのcalmさんが、同じ店で赤星飲んでるってツイートしてるじゃないか!
カウンターを見渡すと俺の他にもう一人だけ赤星を飲んでらっしゃる紳士が・・・。
人見知り具合には定評のある俺だが、恐る恐る声を掛けてみると……ビンゴ!

いや~驚いた、船の上でお会いするならまだしも、人生で2回目に訪れた飲み屋でお会いするとは!
twitter、恐るべし。

それからご一緒させて頂いて釣りに関する表や裏の様々なお話を伺った。相手はエキスパート、こちらは沖釣り3年生。そりゃ刺激的なネタは尽きないわけだ。

宴もたけなわになってきた頃、「あれだけ野毛屋に通っててどうしてウイリーやらないの?」calmさん。
ギクッ!
まさかコマセ使う釣りに興味が持てないとも言えない。
しかし、
しゃくり方ひとつで釣果が変わるテクニカルな釣りだから面白いし、最近釣果もいいし、道具も全部貸してあげるから日曜日行こうよ!
とお誘いが。

うむ。

間違いなくこれも運と縁、そういえばハナダイって釣ったこともなければ食べたこともないし、常宿といっても過言ではない野毛屋の看板メニューであるウイリー五目釣りが未体験というのも考えてみればちょっとアレだし、いっちょやってみますか!

という訳でちょっと一杯のつもりで寄ったのに思わぬ出会いがあって痛飲してしまった上に思わぬ釣行が、偶然だか必然に導かれて日曜日の釣行が決まったのだった。

流れ的にはドラマティックな展開を期待したいところだが・・・。