壊れてしまったカルロス・リベラを見て、矢吹丈は涙した。

キャンプが嫌いだ。
外で食べるご飯が美味しいなんて幻想だ。
テントで寝るなんて最悪だ。
そもそも俺は虫が嫌いだし、簡易式トイレにも耐えられない。

そんな理由で今まで一度もフジロックに行ったことはなかったのだが、BAD BRAINSが出演するとなれば話しは別でしょう!

という訳で俺はアメリカ育ちでアメリカン・ハードコアの生き字引、砂漠とジャンク・フードと大間のマグロ漁師を追った年末特番が大好きという我等がバンドMoritaheadのリーダー、通称“リーダー”を誘っていざ苗場へ!

しかし俺と同様にキャンプを嫌い、俺以上に面倒な事を嫌うリーダー、広い会場を歩きながら色々なバンドを見て回るなんて考えはお互いの頭に全くなかった。

でMELVINSとBAD BRAINSの2バンドだけを観る作戦に。

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WHITE STAGE。車を駐車場に停めてからここに辿りつくまでたっぷり1時間で既にグッタリ…。

まずはMELVINS。ツインパワー、じゃなくてツイン・ドラムという変則編成。しかしこのツイン・ドラム、異なるリズムなりフレーズを叩く事なくほぼユニゾン
よく効果がわからなかったというのが正直な感想だ。
しかし曲はカッコイイし、演奏は不吉なパワーで満ち溢れ、“オルタナの開祖”と呼ぶに相応しい、唯一無二の圧倒的なパフォーマンスを見せてくれた。最後の最後にギターの弦が切れてしまったのもまるで演出のようで良かった。

ZAZEN BOYSは当然スルーして体力の温存を図る我々。ベンチでビールを飲みながらマッタリと過ごす。

時折雨が強くなり、つくづく雨にたたられるフェスだなあと思う。

さてお目当てのBAD BRAINSの登場が近付き再度WHITE STAGEへ向かうと、年甲斐もなく最前近くを位置どった我々。とは言えステージ上手側に大きく片寄ったポジショニングでモッシュ・ピットが起こったらすぐに避難可能な導線の確保も怠らない。

BGMが止むと割れんばかりの大歓声が沸き起こる!
そして、のそっとステージに現れたメンバー!
まるで仙人か浮浪者のような出で立ちのHRが一言二言話すといきなり“attitude”のイントロが!タイトで爆音で切れ味鋭い演奏!「ああ、BAD BRAINSだ!」と思ったのもつかの間、

「・・・。」

歌うというよりも、まるでお経を唱えるが如く歌詞をボソボソ呟くだけのHR。
そこには感情もなく、音程もなく、抑揚すらもなかった。
その姿はミュージシャンというよりも、ホセ・メンドーサのハード・パンチによって破壊されてしまったボクサーのよう。

曲は文句なしにカッコイイ。演奏も非常に良い。でもボーカルがねえ・・・。

最終解脱してしまったHRのソウルを埋め合わせようと、他の3人はハイ・テンション、ハイ・エナジーで頑張る。しかし観る側にとってはむしろその対比が痛々しく思えたりもする。

何かが舞い降りて、突如往年の輝きを取り戻したりしないかなと期待していたのだが、結局最後までお経ボーカルが続きこの日のステージは終わったのだった。

既にアメリカン・ハードコアの伝説として揺るぎのない名声を得ているBAD BRAINSではあるが、演奏陣は現役バリバリのポテンシャルを持ったミュージシャンであった。
そんな彼等のジレンマやフラストレーションは永遠の凡人である俺には計りかねるけれど、心中を察するに余りあるというか、切ないものがある。

まあでも観ておいて良かったな、と素直に思った。良いか悪いかの二元論で言えば、どちらのバンドも非常に良かったのだ。

「今度スタジオでBAD BRAINSとBLACK FLAGのコピーでもやって遊ぼう」と車中で盛り上がりながら我々は帰路についたのだった。

しかしフジロックを満喫するにはいささか俺は老い過ぎているような気がした。
俺より明らかに年上の人も大勢来ていたんだけどね・・・。

哀愁・・・。