運命の日…7/22野毛屋

7月22日。新月、大潮、皆既日食
万難を排し、万全を期して予約していた川崎トレードウインズ。しかし出船前夜の7時半、「天気予報が非常に悪くなったので出船を中止する」と池田船長から非情な電話がかかってきたのだった・・・。

・・・。

そりゃあ自然が相手の遊びなんだからこういうこともあろう。でも、大潮の平日を狙って1ヶ月近くも前に予約を入れ、代休を申請し、この日に仕事が入らないように上手いこと調整してきた俺としては簡単に諦めることなんて出来ない訳よ!

翌朝、諦めの悪い俺はタイラバ・タックルと管釣りタックルの2種類を車に積み込むと雨の中出発。勿論目指すはキャプテン勇治の待つ金沢八景・野毛屋だ!多少のシケなどものともしない彼なら出船するに違いない!逆に勇治船長ですら出船出来ない大シケならスッパリ諦めて管釣りに変更、開成かすそのに行こう!

船宿に着いてみれば先行者3名。しかし出船するかしないかまだわからないとのこと。とりあえず俺は左舷トモの釣座札を取り、待つ。なにしろこの時点で大雨に風、今後の予報は回復傾向とは言え船が出れなければ始まらない。

「とりあえず行くだけ行ってみるそうです。」微妙な言い回しではあるが6時45分に出船決定!受付を済ませいざ船上だか戦場へ!

速さがウリの第一忠丸もこの日は徐行運転。そして海保近辺で激しい横揺れが始まり、船はこのまま引き返すんじゃないか?と思ったけれど、なんとか観音崎のポイントに到着した。ここは南西風の風裏になる為、意外と波が低い。

「凄かったなあ、さっきの波は!」と開口一番に船長、百戦錬磨のキャプテン勇治が“凄い波”と言うくらいだから本当に凄い波だったのだろう。

タイラバ2名、テンヤ2名、両刀遣い1名の合計5名の客に加え船長と助手も竿を出し7名で釣り開始!
開始早々に左舷ミヨシでホウボウが上がった。そしてその次の流しで“コンコンコン!”
「!」
俺の竿に生体反応!そして
“ゴンッ!”
キタアアアアア~~~~~~~!
アレ?確かに魚は掛かっているのだが、たいして引かない。と思っていたら上がってきたのはホウボウだった!
「一瞬タイかと思ったけどな。残念!」と波田陽区のような船長。でもホウボウの刺身って旨いんだよね。早々のおかずゲットに気分は悪かろうはずもない。

更に次の流しの事だった。
「しっかりアワセろ!」突然響く船長の怒号。お、左舷ミヨシでヒットだ!「今度は本命だぞ!タモ持って来い!」と大声で助手を呼ぶ。上がってきたのは1kgほどの綺麗なメスの真鯛だ。
まだ10時、今までの乗船で最も早い本命ゲットに俺の期待は高まる。

降りしきる雨もいつしか止み、時折薄日がさすコンディションになった。「日食見えるかもな!」とキャプテン。他の客が「まづめが2回あるみたいなもんだから魚も釣れるぞ!」ホントかよ?

しかしあながち嘘とも言えない現象。曇り空で結局日食は見えなかったのだが、日食が起こっているとされる時間帯に船の周りでサバの大量ボイルが発生!夥しい数のサバサバサバが跳ねまくっており、船中サバが入れ食い状態に!
「ありゃ~イワシの群れを襲ってるんだな。」と船長、であればこの下にイワシを捕食する真鯛も集まっているかもしれない!
・・・期待はしたのだがサバばかりで本命はノーヒット。「上潮が流れる時間だから沖に行こう!」とサバの群れに見切りをつけて船は久里浜沖へ向かって出発!前日は上潮時に久里浜沖の深場で8発もヒット、しかも針が折れたり伸びたりして4枚もの大物を取り逃がしたらしいのだ!しかし・・・。

風裏になっていた観音崎とは異なり、風を遮る陸地の無い久里浜沖は大シケ状態!
波、風に加えて二枚潮で底がとり辛い!
「表面だけで底の潮が流れてないからもうちょっと浅い場所から始めて徐々に深場を探ろう。」と船長。大きなウネリの中を最徐行で進み、水深30m台のポイントへ移動した。

そしてその時は唐突に訪れた。

“コンコンッ!”
「?」
“ゴンゴンゴン!”
「!!!」
“ズドン!”
「船長、食ったああああ!」
思わず大声を出した俺。
「おお、本命だぞ!本命がきたぞおおおお!」船長も絶叫する!
“ゴンゴンゴン!”
今までに味わったことの無い、頭を振って潜り込むような強烈な引き、これがいわゆる鯛の三段引きってヤツか?しかし、
「バレた!」
「ああ、バレた!」
・・・船長とハモってしまった。
「完全に掛かったと思ったけどなあ。」と船長。
・・・。
「悔しいです!」とナチュラルにザブングルな俺。
人生初ヒットの真鯛はあえなくバラして終わってしまった。

・・・。

そしてその後ドンドン潮の流れは良くなったのだが、船中全くアタリがないまま時間だけが過ぎていった。

「潮の流れが良くなってきたから、最近大物があたってるカケアガリを攻めるぞ!」
激しいウネリの中をヨロヨロと沖へ向かって進む第一忠丸。他の釣船の姿も殆どなく、今日のコンディションがいかにタフなのか改めて思い知らされる。

「最初は70m近いけど、どんどん浅くなるのでマメにタナを取り直して下さい。」
とアナウンスがあって試合再開!
・・・。
「おかしいなあ、昨日はここで8回も当たったのに。」
「真っすぐな最高の潮なんだけどなあ。」
しきりに首を傾げ始めたキャプテン勇治。
良く意味がわからないけど“真っすぐな潮”という表現はいかにも釣れそうでイイカンジだ。
「ここは大物の実績があるし、潮も最高だからここで粘るぞ!」と客というよりは自分自身に言い聞かせるようにキャプテンは言う。

そして沖揚がり時刻が迫ってきた2時半のことだった。

“ゴンゴンゴン!”
“ズドン!”「食ったあああああ!」
アタリがあって数秒で一気に絞り込まれる俺の竿!
「タイだ!間違いなくタイだぞおお!おおい、本命だタモ持って来い!」
俺の竿がしなるのを見るや大声で助手を呼ぶキャプテン勇治。
断続的に激しく叩かれる竿、そして巻く手を休めるとガチガチに締めたドラグが軋み音を上げながらラインが放出されていく。
「やったな~、やっとその竿が仕事したな~。」と船長。おいおい、さっきの例もあるし俺は顔を見るまでは喜べないんだって!
深い所で掛かったし、魚も強烈に潜り込むから長いファイトになったのだが、必死だったのでどれほどの時間がかかったのか覚えていない。道糸を全て巻き取り、さあ、あとはリーダーが5m!ファイナルカウントダウンだ!魚体が見えた!赤い!そしてキャプテン勇治の助手がタモを出しネットイン!
「おお、2kgはあるオスだ!」
イメージ 1

・・・感無量。
やっと本命の姿を見ることができた。
しかしここで事件が。
船のベンチの上で針を外していたところ、鯛が大暴れして床に落下、その際にラバージグのアシスト・フックが俺の左手人差し指に突き刺さったのだった!なにしろ鯛の全重量がかかったのだからカエシのついた極太13号ヒラマサ針が完全に指にめりこんでしまいなす術なし!そして鮮血と激痛。

「船長、やっちゃった!」と助けを求めると、「どれ見せてみろ!」と俺の左手をつかむ。「ああ、これ抜くのはコツがいるんだ。ちょっと待ってな。」操舵室に戻ると極太ペンチを持って来た船長、「針のここを押さえてこの角度に固定して。」と俺に言うやいなや、迷いのないパワーで一気に針を引っこ抜く!
抜けた!
いや~、カエシのある針がモロに刺さったら病院で切開しないと抜けないと何かで読んだのだが、百戦錬磨の海の男は違いますな!
「ここ見てみ。」と船長が自分の左手の親指と人差し指の間を示す。「ここにその針の3倍くらいあるブリ用のぶっとい針がグサッと刺さっちまってさあ、目茶苦茶痛かったけど自分で抜いたぞ。」更に「お客さんに刺さった針も結構抜いてきたし、俺は(釣りだけでなく)針を抜くのも上手いんだ!」と満面の笑みでさらっと言うキャプテン勇治。本当にカッコイイ男だ!

ヒットしたジグのフックを替えて俺も戦線復帰。残り時間は少ないが、“この辺には5kgオーバーが沢山いる”とテンヤをしゃくり続けるキャプテン勇治の姿を目の当たりにしては、俺も攻めるしかない!
すると、
“ゴンゴン!”
なんと10m巻き上げクラッチを切ろうとしたところでアタリが、そしてそのまま2~3m巻いたところで
“ズドン!”キタアアアア!
「おお、タイっぽいけどさっきのより小さいなあ。」と船長。それでも相当な引きだ!
しかし水面に姿を現した魚体は銀色。
「なんだ、シマガツオだ!」と船長。取り込まれたグロテスクな魚体を見て「食えるんですか、この魚?」と尋ねる俺。一応食用ではあるそうだが、脂っこいらしい。後から知ったところによると寄生虫が凄まじいそうだ。という訳で良型の本命に加えてホウボウまでキープしていた俺は、あっさりリリース。
(写真だけ撮っておきゃ良かった…)

その直後に沖揚がりとなったのだった。

【釣果】
7時25分出船、15時10分沖揚がり
真鯛1枚(2.3kg)
ホウボウ1尾
鯖1尾
シマガツオ1尾

【タックル】
ロッド:ZENITH零式 LIGHT G-TOP L 
リール:シマノ カルカッタ・コンクエスト301F
ライン:PE1号、ハリス:フロロ5号

【本日の総括】
いや~、長い道程だった。金も使った。
でも天候のいたずらで予約していた船が出船中止、そして悪天候にも負けずに出船した第一忠丸で人生初の真鯛をゲット、俺としてはなんともドラマチックな結末だ。

帰港後、DIY精神を地でいくキャプテン勇治が珍しくアイスピックとナイフを使って俺の仕留めた獲物をシメてくれた。そして「記念撮影をしよう!」というと操舵室からインスタントカメラ(このご時世にデジカメでなくインスタントカメラというところがなんとも言えず良い)を取り出し、両手で真鯛を持つ俺の姿をカメラに収めたのだった。

「最近通って頑張ってたからな、もう一枚もバレずに釣って欲しかったぞ。」とキャプテン勇治。
ここまで客の事を思ってくれる船頭を俺は他に知らない。

この記事を書いている今でも両腕に真鯛の強烈な引きの感触が鮮明に残っているし、そこはかとない幸福感も持続中。
とりあえずケリはつけることが出来たし、次回からは余裕を持って臨むことができそうだ。

タイラバ編・完結。
そして、つづく。