アメリカの鱒釣り・・・第一章

2008年9月23日。
灼熱地獄を覚悟していたのだが、約七ヶ月振りに訪れたロサンゼルス国際空港は思いの外涼しく感じられた。
レンタカーオフィスへ向かうシャトルバスに乗り込み、予約していたカーナビ付きの車を借りる。FORD FUSION?知らねえな、そんな大型スクーターみたいな名前の車は。
一通り装備を確認してから出発。高速に乗るといきなりの渋滞にハマル。村上春樹的に言えば『「やれやれ、またロサンゼルスか」と僕は思った。』という感じだ。
飛行機で殆ど眠れなかったので、渋滞もキツイが郊外に抜けてからの単調極まりないドライブも非常に堪える。
フリーウェイ沿線のCARL's Jr.というあまりにアメリカ的ハンバーガー店であまりにアメリカ的な昼食を済ませると、運転は同行のDDV(元会社の先輩、現飲み仲間。たまに釣りもやる。最近ギターを始め、我等がバンドMoritahead第六の男としての顔も併せ持つ。)にチェンジ。しかし助手席に座ると何故か先程までの眠気は消え失せ、俺は音楽を聴きながら広大かつ殺風景な景色を眺めるともなく眺め、心の中で『「やれやれ、またアメリカか」と僕は思った。』と何度も呟く。
ところで全くの余談だが、砂漠を爆走するときに最も似合う音楽はピンク・フロイドだということに数年前に気がついた。その時は「狂気」をエンドレスで聴いていたのだが、今回はこの旅の為に持参した「炎」を聴きまくる。
『う~ん、狂気もいいけど炎も合うなあ。』と砂漠とフロイドの完璧なマリアージュに酔いしれていると、「なんか砂漠とピンク・フロイドってメチャメチャ合うなあ・・・」と唐突にDDV。
…。でしょ!?
そんな訳で、砂漠をドライブされる際はピンク・フロイドのCDをお持ちになることをオススメする。

果てしなく北上を続ける我々。遂に伝説の巨哀愁ルート、US395に到達した。アメリカ育ちの我等がバンドのリーダー、通称「リーダー」が教えてくれたこのルートはシエラ・ネヴァダ山脈に沿うように南北に走る国道で、とにかく哀愁の含有量がハンパでなく、初めてリーダーに連れて来てもらった時から俺の心を捕えて離さない道なのだ。哀愁が大好物のDDVも「!」「!!!」「!!!!!」と感嘆符を連発し、完全にリーダーの呪縛に捕われたようだ。
そして北米最高峰のマウント・ホイットニーの麓の町、LONE PINEに差し掛かった時には俺達のテンションは最高潮に達し車内は狂乱の宴と化したのだった!そのまま町の中心部のモーテルになだれ込み、とりあえず今宵の宿を確保。
荷物を部屋に置くと、すぐさま散策に出発。釣りの情報を収集し、釣り具店でフィッシング・ライセンスを購入し、部屋で飲む為のビールをパックで購入し、翌日の正確な日の出の時刻を調べるために新聞を購入し、マウント・ホイットニーを間近に見に行って興奮し、慌ただしくも充実した時間を過ごす我々。
そして国道沿いのオープン・テラス付きのアメリカン・レストランに入店。注文したのはその名もシエラ・ネヴァダという正にこの場所で飲むに相応しい地ビール(極めて美味)と、メインは勿論「デカイ、カタイ、マズイ」と三拍子揃ったUSビーフのステーキだ!
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             巨大ワラジを目の前に呆然とするDDV氏(39)

これをシエラ・ネヴァダのサンセットを眺めながら食すのだから堪らない!ビールを一口飲んでは「うめえ!」、ステーキを一口食べては「まじい!」、シエラ・ネヴァダを一目見ては「やべえ!」、追加したワインを一口飲んでは「うめえ!」、更にステーキを一切れ放り込んでは「かてえ!」、肉にステーキ・ソースをかけて「まじい!」と大興奮、イタリア人よろしく賑やかな夕食となった。マズイ食事にも二種類あって、良いまずさと悪いまずさがあ
ると思うのだが、こういうまずさは最高だ。我々は大満足でチップをはずみ、宿に引き上げてパック買いしたシエラ・ネヴァダを更に流し込む。そしてありったけのビールを飲み終えると、そのまま寝るような野暮はせず、俺達は追加のビールを買う為に再び町へと繰り出したのだった…。


翌朝は5時に起床。シャワーを浴びてそそくさとチェックアウトし、近隣のカフェで朝食を摂る。DDVはサルサ・ソース付きのスクランブル・エッグを、俺は目玉焼きとベーコンをそれぞれチョイス。これをカリカリのトーストと味も薫りも薄い巨大マグカップ入りのコーヒーと一緒に頂く。悪くない。
まったりしていたら東の空が白んで来てしまったので慌てて会計を済ませ発進、ホイットニー・ポータルという脇道を西へ進み、前日下調べしていたポイントで朝日を待つ。このLONE PINEという町は、西をシエラ・ネヴァダ、東をINYO MOUNTAINSという南北に走る二つの山脈に挟まれる場所に位置している。つまり朝日は東の山脈の上から顔を出してくるのだが、それがシエラ・ネヴァダにどのような演出を与えるのかと言うと・・・。

これだ!!!
















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どう、この景色!すごくな~い?

少なくとも俺はどんなガイドブックでも紹介されているのを見たことのないこの絶景、これを教えてくれたリーダーこそが俺のアメリカの最高のガイドであり権威なのだ。
砂漠の中は耳鳴りがする程の静寂。耳を澄ませば微かにクリークの流れの音が聞こえる。そんな中で山頂から徐々に赤く染まっていくシエラ・ネヴァダ。この感動を言葉で伝える術を俺は持たない。

自然が織り成す一大スペクタクルを堪能した俺達は、再びUS395に戻ると、更なる北上を開始したのだった。

つづく。